「フェア・ファイナンス・ガイド(保険ガイド)」オープン記念セミナー

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A SEED JAPANが運営団体の一員を務めるFair Finance Guide Japan(http://fairfinance.jp)(以下FFGJ)は、2014年12月の開設から日本の大手銀行の投融資方針の社会性を評価してきました。この度FFGJは、銀行に続き、日本の大手保険会社の投融資方針の社会性を格付けする「保険ガイド」を開設しました。
その開設を記念して、7月25日(水)に、
「フェア・ファイナンス・ガイド(保険ガイド)」オープン記念セミナー ~保険会社の投融資方針の社会性を格付けする、日本初の取り組み~
を開催しました(イベント概要はこちら:https://fairfinance.jp/news/2018/20180725/)。
本セミナーを通して、海外からのゲストや日本の専門家の方々とともに、保険会社の活動を変えることによる社会的なインパクトの大きさと、実際に変えるために必要な考え方・アクション、そしてFFGJの保険ガイドが果たすべき役割について考えました。
ここでは登壇者・コメンテーターの皆様のご発表と質疑応答をご報告します。

①Lucie Pinson氏(Unfriend Coalキャンペーンのヨーロッパ支部コーディネーター/Sunrise Project)

パリ協定やIEAのシナリオからも分かる通り、地球の気温上昇を2℃以内に抑えるためには石炭火力発電を続ける余地はない。しかし大手保険会社の多くが石炭関連事業に保険を提供するなどの支援を行っているため、政府からの認可やプロジェクト・ファイナンスを受けて事業を続けている。
この現状を変えるために、Unfriend Coalキャンペーンは、世界中での石炭事業の廃止に向けて、保険会社に対して、石炭関連企業からのダイベストメントもしくは新規石炭関連事業への保険の引き受けの停止を求めている。その際、①企業のエクスポージャーおよび発電量に占める石炭の割合や②企業の年間石炭採掘量/石炭関連発電量、③企業の今後の石炭事業への積極性に関する3つの基準を提案している。活動の結果、これまでにAXAやSwiss Re、Allianzなど5の大手保険会社が石炭事業への保険引き受けを禁止し、17の会社が230億ドルを石炭事業からダイベストした。また、金融業界全般や、パリ市・サンフランシスコ市などの大都市から賛同を得ている。
一方、ダイベストメントと比べて保険の引き受けの停止が進んでいないことや、プロジェクトを超えた企業単位のダイベスト、また投資先の会社の資産の運用先の調査に基づくダイベストが行われていないことが課題となっている。またEUと比べてアメリカ・日本が遅れていることも問題だ。
最後に、投融資方針が全世界かつ石炭のバリューチェーン全体をカバーしているのか、その方針が石炭関連企業への支援の停止につながるのか、そしてその結果はパリ協定に沿っているのか、常に自問してもらいたい。

②田辺有輝(「環境・持続社会」研究センター プログラムコーディネーター)

Fair Finance Guide(以下FFG)は、民間金融機関に対する活動を通じて途上国での環境破壊や人権侵害の問題解決を図ることを目的として、金融機関の投融資方針の社会性を、16のテーマについて各10点満点でスコアリングしウェブサイトで公開する活動だ。日本では2014年から銀行のスコアリングを始め、これまでに三井住友トラストや農林中金が大幅にスコアを上昇させた。スコアリングに加えて、ケース調査として、スコアリングに用いる投融資方針と実際の投融資案件とのギャップを発表してきた。このケース調査やスコアリング結果をもとに預金者の意見を集めて銀行にメッセージを届ける活動も行ってきた。
今回の保険ガイドはオランダに次いで2番目であり、日本国内初の保険会社の投融資方針のランキングである。FFGでは保険の引き受けは対象とせず、この投融資に絞って社会性を評価している。5つの生命保険(以下生保)と3つの損害保険(以下損保)の計8つの主要保険グループ企業を調査対象とした。
今回のスコアリングの結果、1位がMS&ADで2.4点、2位がSOMPOで1.3点、3位が東京海上で0.9点となった。この理由として、MS&ADがグループ人権基本方針で複数のグローバルな基準を適用していること、SOMPOグループの損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントが「議決権行使ガイドライン」で汚職・労働者の人権などについて細かく規定していること、第一生命が海外石炭火力発電プロジェクト・ファイナンスへの参加に参加しない方針を表明したことがある。なお、日本とオランダでは平均的にオランダのスコアが高かった。
今後は銀行・保険ガイドの評価方針を改訂し、複数のケース調査を発表する予定だ。またFFGのFacebookページでESG金融の動向を不定期で配信している。引き続きウェブサイトやFacebookページを確認してほしい。

③中原秀樹氏(一般社団法人エシカル推進協議会 会長)

『Ethical Consumer』という雑誌が創刊された経緯についてお話したい。当時マンチェスター大学の学生だったRob Harrison氏は、南アフリカのアパルトヘイト問題に目をつける。その頃の世の中は新自由主義の考え方が中心。つまり市場の問題は政府と関係なく市場の中で解決すべきであり、人権問題等は政府の役割の範疇に無いと主張されていた。そんな中Rob氏を中心とする当時のマンチェスター大学の学生らが立ち上がり行ったのが、バークレー銀行のボイコット運動だった。つまり、アパルトヘイト問題に加担している銀行からお金を引こうということだ。その結果、バークレー銀行はなんと市場シェアの15~20パーセントを失うことに。学生たちが「これは変じゃない?」と声をあげ、始めた運動がアメリカ、イギリス中に影響を与えたのだ。
この出来事からボイコット運動が社会的な広がりを見せるようになったが、余りに多くのボイコット運動が立ち上がったため、同時に混乱も生まれた。そんな中で、どのボイコット運動を選ぶべきか情報が必要だということで創刊されたのが『Ethical Consumer』だ。
ところで、Rob氏らのボイコット運動が成功した背景には、民度の高い民主主義や資本主義が根付いていることがあると考えられる。例えば、アメリカ人は子供の頃から稼いだお金の三分の一は現金、三分の一は不動産、そして残りの三分の一は投資、という風にお金の使い方をきちんと教えられている。しかし、日本ではお金の使い方は誰も教えてくれない。そういった中では、人権問題等に関して財務省や日銀や保険会社等がどういう風にお金を使っているのか、いっそうきちんと見ていなければ危険である。

④夫馬賢治氏(株式会社ニューラル 代表取締役社長)

サイバーリスクやIoTに劣らず、保険会社、特に損害保険会社に一番リスクと考えられているのは、実は「気候変動」だ。そのリスクをどうにか分散して他の会社にファイナンスとして移していこうとする動きが盛んである。その分散先の一つに、再保険会社がある。もちろん、負担額が大きいものに保険料を払うなんて会社はなかなかないだろう。つまり、気候変動を加速させる石炭関連プロジェクトに投融資をする、あるいは保険を引き受けるのは、つまりは自らリスクを増大させることになる。
気候変動などに付随して起こる自然災害増加で保険業界が打撃を受けていることは「ソルベンシー・マージン比率」の変動で明らかだ。端的にいうと「支払い余力に耐えられる経営状況にいるのか」を意味する指標である。持っている資産の使い方も、保険会社の支払い方も、これまでの経営シナリオでいいのか考え直すことが必至の時代となっている。
それに伴って保険料率も変わりうる。それはつまり、被保険者の企業、そして私たち市民のそれぞれにかかわってくる話だ。これからどのように保険会社が自然災害のリスクをシミュレーションしシナリオを立て直すのか、注目どころである。

⑤コメントへの意見と質疑応答

田辺氏コメント:
(中原氏の発表より)銀行や保険のように消費者が選択できるものはスコアリングが有効だが、年金は全部GPIFで我々が選べないため、どうアプローチすればいいか非常に悩んでいる。アイデアがあればいただきたい。
(夫馬氏の発表より)今回のFFGのスコアリングでは、生保と損保とを同一の基準で評価するために引き受けを評価しなかった。また、融資やプロジェクト・ファイナンスと異なり、引き受けは情報公開が全くないため現状ではケース調査が難しい。これらの問題に今後対処したい。

Pinson氏コメント:
(田辺氏の発表より)FFGは透明性や情報に対する意識の向上、また気候に関心の高い市や消費者などが実際に保険会社を選ぶ際の助けとして重要なツールだと考える。自社だけが取り残されないようにするため保険会社内での認識も高まると思う。現在カバーされていない引き受けの部分が今後の改善のポイントになるだろう。

質問1:Unfriend Coalでは燃料炭と原料炭との区別はつけていないのか。
回答(Pinson氏):多くの企業のダイベストメント方針が燃料炭についてのみ言及しているため区別はつけていない。ただし原料炭も2050年までには段階的に廃止しなければならないとされている。

質問2: ESG投資が損保にとってビジネスのメリットとなることには非常に納得したが、生保にとってのビジネスの側面でのメリットはないのか。
回答(夫馬氏):生保が主要な機関投資家である投資業界全般でも、ESG投資の方がリターンが上がると広く聞かれるようになった。その中で特に損保業も行っている企業の方がより敏感に反応していると感じる。

⑥最後に一言

夫馬氏:
銀行の話題が多かった中に保険が大きく入ってきたことにはとても期待している。世界的にはPSIやSIFなどの団体が動き出している。金融庁の方に考えを尋ねたところ、直接金融機関に号令をかけることで自主性や地力
が失われることを懸念しつつ、この問題への関心を高めているように感じた。これからの動きに期待したい。
中原氏:
人間が生きるのに必要なエネルギーは食料だけだが、必要ないエネルギーである石炭の開発の跡地では食料も何も育たない。こんな開発にお金が大量に使われている。その中で我々の向かう先をきちんと見ていく必要がある。田辺氏からGPIFのチェックに関する発言があったが、解決策の一つは1970年代に北欧諸国で作られた金融オンブズマンだ。金融をきちんと監視しなければ、力を持った国の政策・経済の向かう先がわからなくなり、勝手な開発が進められ、一番大事なものが失われる。
Pinson氏:
石炭への支援をやめることは、気候変動の問題だけでなく、人権の問題でもある。石炭は最大の炭素排出源であるだけでなく、人間の健康に非常に毒性が高い。生保は気候変動リスクの影響に懸念が低いかもしれないが、人々の健康に保険をかけることと人間を病気にする産業を支援することとの矛盾にはより懸念を持つのではないか。このような意識が日本で高まり他の国々へ広まっていくことを期待している。
田辺氏:
将来も石炭の余地があるという日本政府のエネルギー政策の方針がある中で、日本生命による国内外の石炭火力発電からのダイベストメント方針が発表されたのは驚きだった。日本政府の方針と異なる方針を日本最大の民間生保が設けたことの政治的なメッセージは非常に大きい。また、日本の電力企業の最大の株主として、今後日本生命はこの方針とその他の方針のギャップを埋めざるを得ないと考える。この二つの意味で日本生命の発言は非常に大きな変化だ。

<編集後記>
日本で初めてとなる、社会性の面からの保険会社の格付けということで、金融業界をはじめ様々な企業・団体からの関心も強く、当日は40名の方々にご参加いただくことができました。講演後の懇親会でも、登壇者・参加者が交流して非常に活発な議論をされていたのが印象に残っています。
パリ協定の実施に向け、経済界・市民セクターが総出となって取り組みを加速しなければいけない今日。いまだに石炭へ多くの支援が行われる中、金融業界、特に保険業界がもつ役割の重要性が強調されました。気候変動の抑止のために、私たち市民一人ひとりが、銀行と保険会社の変革に向けて今一度アクションを強化しなければならないとセミナーを通して改めて感じます。

私たちFair Finance Guide JapanとA SEED JAPANエコ貯金プロジェクトでは、金融を通してクリーンで公正な社会を実現するために、今後もセミナーやイベントを開催していきます。
詳しくはA SEED JAPANのホームページ(http://www.aseedjapan.org)やFair Finance Guideのホームページ(https://fairfinance.jp)にて随時告知していきますので、引き続きご注目ください。
また、Fair Finance GuideではFacebook(https://www.facebook.com/fairfinanceguidejapan/)にてESG投資や関連する社会問題についての情報を定期的に発信しています。こちらもぜひご覧ください。

<参考URL>
・FFGJ「保険ガイド」サイトオープンのプレスリリース:https://fairfinance.jp/news/2018/20180723/
・Unfriend Coalキャンペーン:https://unfriendcoal.com/
・エシカル推進協議会:https://www.jeijc.org/
・株式会社ニューラル:http://neural.co.jp/

(ライター:やまぴー・りえし・かっぺ)

 

 

 

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2018-08-25