HOME >
キーワードを入力
 
 
 
 
 

 

 
 



 
   
 
   
第2回 エコ貯金フォーラム
 〜口座を変えれば世界が変わる〜
【報告書目次】
 
1. まえがき .....3
2. プログラム .....6
3. オープニング「エコ貯金と預金者の役割」 .....7
 
はじめに
  エコ貯金の背景〜企業社会の進展と企業の社会的責任(CSR)〜
  エコ貯金とは?
  私たちが金融機関に望むこと
  おわりに
4. 基調講演「金融CSRと市民金融を預金者はいかに考えるか」 ....15
 
「金融CSR」の本質 
〜本業(=投融資)を通じた社会貢献〜
  日本における市民金融の系譜 
〜「講」、協同組合、そしてNPOバンク〜
  金融CSRと市民金融のリンク 
〜金融のプロの参画を〜
  金融商品の需要側と供給側、その相互作用と先にあるもの
〜「市民の視線」が銀行を変える〜
  「みんな、気づいている。だから、行動へ」
5. パネルディスカッション「預金者が選び、参加し、創る銀行」 ....25
  金融機関のCSRについてのメッセージ
  金融機関のスクリーニング(融資先のふるいわけ)について
  社会事業への資金循環について
  預金者へのメッセージ
6. フィナーレ「預金者へのアクションアピール」 ....46
   
まえがき
  A SEED JAPANエコ貯金プロジェクトでは、「環境や社会に配慮したお金の流れをつくる貯金スタイル」=「エコ貯金」を広めるために、これまでWEB「エコ貯金ナビ」を通じた情報発信や、金融機関のCSRに関する調査や提言を行ってきました。
  その一環として2004年1月に開催した「第1回エコ貯金フォーラム※」では、基調講演に慶應義塾大学経済学部教授金子勝氏、高崎経済大学助教授 水口剛氏をお招きし、環境に配慮した金融のあり方とその社会的背景について学ぶとともに、分科会でのエコ貯金の実践者、推進者とのディスカッションを通じて、エコ貯金の今後の課題と可能性を具体的に知ることができました。
   この第1回フォーラムの成果を元に、エコ貯金プロジェクトメンバー間で数多く議論を重ね、「預金者のアクションをより強く促し、さらに金融機関の社会的責任(CSR)を求めていくために、預金者視点に立ったフォーラムをもう一度開催する必要がある」との結論に達しました。課題や可能性を整理するだけでなく、その先にあるはずの「預金者の具体的な行動」と「金融機関との対話」を実現しなければ、エコ貯金も単なる理念に終わってしまう、と考えたからです。
  そこで、第1回フォーラムから約1年半を経て、この2005年4月に、金融機関のCSRと預金者の行動をテーマに、「第2回エコ貯金フォーラム 〜口座を変えれば世界が変わる〜」を開催することとなりました。このフォーラムは預金者に対して「口座を変える」というアクションを促すアースディ企画「3億円のエコ貯金アクション」とも連動し、エコ貯金というライフスタイル変革を強く推し進める狙いがありました。
フォーラム当日は、各地から老若男女問わず120名もの参加者が集まり、会場が熱気に包まれる中、無事開催の運びとなりました。
  フォーラムは、A SEED JAPANから「エコ貯金」の定義や預金者の役割についてのプレゼンテーションでスタート。
続く基調講演では、「金融CSR」や「市民金融」の最新の動向について記事を執筆されている日本経済新聞編集委員 藤井良広氏から、金融機関が担うべき社会的責任の本質や、NPOバンクを始めとする、近年の市民金融の広がりの背景、預金者が行動することの意義についてお話しいただきました。深い知識に裏付けられた力強いメッセージは、預金者のみならず金融機関の方々にも感銘を与えたのではないでしょうか。
  メインプログラムであるパネルディスカッションでは、メガバンクからNPOバンクまで、それぞれの業態の中でCSRを推進している方々にお集まりいただき、それぞれの最先端の取組みを紹介いただくとともに、社会的な問題にまで踏み込んだディスカッションが繰り広げられました。まさに、市民と金融機関との対話の第一歩となる貴重なパネルだったと感じています。
  最後に、A SEED JAPANから「預金者へのアクションアピール」を行い、「金融意識」と「エコ意識」の両方を兼ね備えることが、これからのライフスタイル変革、そして金融機関を変えることにつながることをアピールしました。

 そしてこの度、この貴重なフォーラムの成果を詳細な報告書としてとりまとめ、WEB上で公開することとなりました。当日会場に来られなかった方も、ご一読いただければ、エコ貯金の背景、考え方から、金融機関のCSRの本質とその最先端での取り組みまで理解していただけるものと考えています。この報告書によって、多くの市民の方々、また金融機関の方々が共に考え、行動していく「きっかけ」が生まれることを願っています。

A SEED JAPAN エコ貯金プロジェクト一同

【注】以下の報告書の文中、意見に係る部分は講演者・出席者の個人的見解であり、
所属する組織の見解を必ずしも代表するものではありません。

(※)第1回エコ貯金フォーラム報告書はこちら

主催: 国際青年環境NGO A SEED JAPAN
助成 : 中央ろうきん社会貢献基金

協力:

中央労働金庫
日時: 2005年4月17日(日)開場13:00、開始13:30、終了17:00

場所:
在日本韓国YMCA スペースY文化センター

(1)オープニング(A SEED JAPANエコ貯金プロジェクト 土谷和之)

「エコ貯金と預金者の役割」 

(2)基調講演(日本経済新聞編集委員 藤井良広氏)

「金融CSRと市民金融を預金者はいかに考えるか」

(3)パネルディスカッション

「預金者が選び、参加し、創る銀行」

【コーディネーター】

A SEED JAPAN事務局長 木村真樹

【パネリスト(五十音順)】

A SEED JAPAN(理事 田辺有輝)
女性・市民信用組合(WCC)設立準備会(代表 向田映子氏)
多摩中央信用金庫(業務部主任調査役 長島剛氏)
中央労働金庫(営業推進部NPO推進次長 山口郁子氏)
東京三菱銀行(総合企画室CSR室次長 田貝正之氏)
三重銀行(審査部 土方研也氏)

(4)フィナーレ(A SEED JAPANエコ貯金プロジェクト理事 鈴木亮)

「預金者へのアクションアピール」

 
オープニング
A SEED JAPAN 
土谷 和之
はじめに
 今日は非常に多くの方にお集まりいただき、ありがとうございます。これも「エコ貯金」という考え方や、預金者・金融機関の役割というものが重要視されてきたことの現れだと思います。
このオープニングでは、A SEED JAPAN(以下ASJ)の考えるエコ貯金の意義・定義、これからの預金者の役割等についてお話ししたいと思います。
 まずASJという団体の説明をさせていただきます。ASJは1992年の地球サミットに日本の青年の声を届けようということから始まり、およそ14年間活動を継続している団体です。テーマは「経済をエコロジーに」、すなわち「経済システムを変えることにより持続可能な社会を築いていこう」ということを提唱しており、「買う・働く・貯金する」という私たちの身近な経済活動を変革することを目的に、色々な活動を展開しています。今回のエコ貯金フォーラムもその活動の一環です。
 今日お話する内容は、大きく3点あります。

T.エコ貯金の定義の前に、その背景として現代の企業社会の進展と、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility=CSR)が重要視されてきているという点についてお話したいと思います。
U.エコ貯金とはどういったものか、その定義を具体的にお話します。
V.その上で、私たちが金融機関に求めていきたいことについてお話しします。

エコ貯金の背景〜企業社会の進展と企業の社会的責任(CSR)〜
 20世紀を振り返ってみますと、技術進歩とグローバル化の進展というものが非常に著しかった時代といえます。世界の貿易額はここ30年で20倍にもなり、非常に世界的な企業間競争、規模の利益を追求した大企業の実現というものが20世紀の社会の特徴でした。実際、これは私たちの身近な暮らしにも大きな影響を与えています。シャンプー・チョコレート・携帯電話など、毎日使うものから嗜好品まで、大部分が大企業によって生産されているのです。
 例えば携帯電話ですが、NECの携帯電話もっている方、いらっしゃいますか?(手を挙げてもらう)。携帯電話については、NEC社、パナソニック社といった大企業が大きなシェアを占めています。このことを必ずしも悪いこと、良いこととは一概には言えませんが、良くも悪くも企業が私たちの暮らしを決定する時代になったと言えると思います。
 環境負荷を考えても、企業は大きな影響を与えていると考えています。例えばCO2の排出量は、よく家庭から出てくるものがよく話題になるのですが、実際は産業部門から出るものが4割のシェアを占めていて、やはり企業の行動如何により環境負荷も大きく変わってくる、と言えます。
 そんな中、企業の社会的責任(CSR)が重要視される時代が到来したと言えます。すなわち、「企業が与えている環境負荷社会的悪影響を可能な限り削減し、社会問題の解決や持続可能な発展に資源を振り分けていく、それを本業の経済活動の中で実践していくこと」が求められる時代になったと思います。
 このCSR時代において、金融機関の役割は非常に重要になってくると考えられます。金融機関、特に大手の金融機関は、経済全体の流れを創り出す企業として、「社会問題の解決や持続可能な発展といったものに貢献する=CSRを果たしている」事業・企業にお金を流し、一方で「環境負荷や社会的な悪影響を及ぼす」事業・企業にお金を流さないことで、経済全体をエコロジーで持続可能なものにする原動力となることができます。これこそが、現代の金融機関の役割であり、金融機関のCSRそのものではないかと考えています。

エコ貯金とは?
 ではこうした背景の中、ASJが提唱しているエコ貯金という概念ですが、まず皆さんに考えていただきたいのが、自分が預けているお金が一体どのように使われているかということです。エコロジーで持続可能な事業や企業のために使われているか、という観点で考えてみて頂きたいです。
 例えば、東京三菱銀行・三井住友銀行・みずほ銀行・UFJ銀行、この4つの銀行をメインバンクに使っていると言う方手を挙げていただけますか?(大多数が挙手) では郵便貯金の方はいらっしゃいますか?(1/4ほどが挙手) さすがに多いですね。実際にデータで見ると、日本全国での預貯金先内訳は、都市銀行が24%ほど、郵貯が20%、地方銀行が20%となっています。東京ではやはり都市銀行が多く、地方に行くと地方銀行が多くなる傾向にあります。
 ではこういった銀行や郵貯に預けられている貯金が、どういうことに使われているのでしょうか。銀行は信用創造(※)という機能を持っており、私達が預けたお金というのは10倍、20倍の規模になって運用されます。そうした中で企業や政府に融資や投資したお金が返っていくということです。ただそれ以後が、なかなかトレースできないと
いった現状があります。そこで今あるデータなどを使いまして5つの視点からお金の流れをチェックしてみたいと思います。
 (※信用創造:銀行が預金の一部を現金で手元に残し、残りを企業へ貸し出す際、貸し出されたお金は取引先に支払われ、取引先から銀行に預金される。この預金と貸出しの繰り返しにより、銀行の預金残高が増えていく仕組みのこと。) 

お金の流れの現状
■ 地域に還らないお金
 例えばこのグラフは地域別のお金の流れを図にしたものですが、地域別に、その地域の預金者の預けたお金と、その地域の企業などに貸し出されるお金を比較したものです。そうすると貸し出しが預金よりも大きいのは東京だけです。つまり、地方から預けられたお金は地域に返る部分もあるけれども、ある程度の部分は東京に行ってしまっている。その結果東京は貸出金が多いということです。その反対に、地方は預けたお金に対して融資されているお金が少ないと言ったことが現状です。

■ 中央の大企業に流れるお金
 次に、「金融ビジネス」という雑誌が独自調査で金融機関の大口融資先を発表しているのですが、例えば三井住友銀行の大口融資先は、東京電力、オリエントコーポレーションのような消費者信用産業、あとは住友商事さんといった商社が中心となっています。例えば原発の建設については賛否が分かれるところだとは思いますが、「自分は原発に反対だ!」と言う人が何気なく三井住友銀行に預けていると、ごく一部かもしれませんが、原発にお金がいっている、自分で働いて得たお金が自分の意志にそぐわないところに行っている、そういう可能性があります。

■ 貸し出されないお金で国債が買われている
 さらに貸し出されていないお金と言うのも金融機関には存在しています。預貸率預金に対して貸出金の率が低下していると言われているのですが、そういうところを細かく見ていくと、都市銀行だと預銀額に対する貸出金の比率は約76%で、残りの24%、1/4程度は国債購入に使われています。郵貯は半分くらい、地銀は10%くらいが国債購入に使われています。

■ 国債に流れたお金は戦争にも使われる
 では、実際に国債に流れたお金というのはどういうものに使われているのかというと、もちろん国内で公共事業に使われるのもあるのですが、一部は日本政府がここ何年か米国債を何十兆円買っている、その購入資金となっています。ここ2年間のイラク戦争で米国が使った額は約15兆円といわれています。そこに100%使われているとは言い切れないのですが、私たちの預金が、こういったお金の流れを通じて、実は戦争にも使われている可能性があります。

■ グローバルに広がる私たちの貯金
 こうして、私たちが預けたお金の流れはグローバルな影響を世界に与えているといえます。貯金は政府・商社・ODAを通じて、例えばNGOが自然環境への悪影響を指摘しているような事業にも流れていきます。

 以上の5つの観点をまとめると、これまでのお金の流れというものは、なかなかトレースできない流れであった。そうした中で、一部が私たちの意思にそぐわない、環境に負荷を与えるような開発や戦争にも私たちの貯金が使われてきた、ということが言えます。これに対して預金者は今までなかなか選択肢を持ちえていなかったのが現実です。

三つのエコ貯金スタイル
 ASJでは、こういったトレースできないお金の流れではなく、環境破壊や戦争に使われない、身近な地域社会のためになるお金の流れを作り出していきたい、そしてそのお金の流れを作るために、自らの意思を持って金融機関を選ぶというスタイルを、「エコ貯金」と呼んでいます。
 では、具体的にエコ貯金とは何かと考えてみます。ASJでは分かりやすさのために、「エコ貯金」を預貯金型・出資型・投資型の3つのタイプに分けて考えています。

■ 預貯金型エコ貯金
 預貯金型というのは、つまり「銀行を選ぶ」ということです。後ほどパネルディスカッションで出席していただく都市銀行・地銀・信金・ろうきん、こういった金融機関の選択肢の中から、私たちの意思で預金先を選んでいくというのがこのタイプです。

■ 出資型エコ貯金
 出資型は、いわゆるNPOバンクと言われていわれている市民金融等にお金を出資していくタイプです。全国各地で未来バンク・北海道NPOバンク・WCCなどのNPOバンクがあり、非営利の組織や社会問題を解決するための事業に積極的に融資をする、そういった組織ができてきつつあります。そういったところに出資するということも、私たちが選択肢として新たに持ち始めたもののひとつです。

■ 投資型エコ貯金
 最後は投資型です。株式投資を通じた活動というと、昔から一株運動などありましたが、最近はSRIファンドによって環境によい企業を応援していこう、という動きも出てきました。実際に環境によい企業の株を買ってそこを応援する、逆に環境によくない、あるいは自分の意志にそぐわない企業・組織の株は買わない選択をする、そのように直接エコロジーな株を選択していくことが投資型エコ貯金です。

 特に今回のフォーラムでは、パネルディスカッションで出ていただく都市銀・地銀・信金・ろうきん・NPOバンクといった金融機関に着目して頂きたいと思います。預金者が様々な選択肢を持ち始めたということが今回のフォーラムで見えると思います。

金融機関の選び方
 では実際にどのような視点で選択していけばよいのか。ASJでは金融機関を選ぶ3つの軸を考えています。
 今まで、多くの預金者は利便性や健全性で金融機関を選ぶということが多かったのではないかと思います。そうした中で都市銀行や郵便貯金を、なんとなく便利だからという理由で選んでいた方も多いのではないでしょうか。それに対して、ASJは「社会性」という軸を加えようと提唱しています。
すなわち、CSRを果たしている企業に融資しているか、社会問題を解決する事業に積極的に融資しているか、地域社会の活性化に貢献しているか等、金融機関の社会性を表す項目をチェックし、自分なりの基準を作ってお金を預けていきたい、というのがASJの考えです。
 実際これを具現化しているのが、ASJで3月中旬から4月末まで(現在7月末までに延長)行っている「3億円のエコ貯金アクション」です。これは自分の口座を、便利さや利息だけではなく、社会性の視点も加えて選び、「エコ貯金をする」という宣言を3億円分集めるという、前代未聞のアクションです。北海道や名古屋の方にも参加して頂き、現在3679万円分の、「口座を変えよう」という宣言が集まりました。内訳を見てみると、メガバンク・郵貯などから変えるという方が多いのですが、NPOバンクに新たに出資するという方もいらっしゃいます。預金者の皆さんには、こういった他の人の宣言も参考にしながら、自分がどうやって貯金・口座を変えていけばいいか、あるいは今のままの口座でいいのかということを、社会性の視点も加えて考えていただきたいと思います。

私たちが金融機関に望むこと
 このように、いま預金者のアクションが動き始めている中で、私たち預金者が金融機関に望んでいくことはなんだろうか、ということをお話したいと思います。
 今こうやってNPOバンクが全国各地に設立され、預金者の意識が向上してきて、環境に優しい金融機関を「選ぶ」という動きが芽生えています。そうした中で金融機関のほうも、「選ばれる」金融機関であるための取り組みがこれまで以上に重要となってくると考えています。
 ASJでは、金融機関に社会性の面での取組みを推進してほしいということで、金融機関との対話に向けて次のような活動をしています。
 1つは、ASJからメガバンク(都市銀行)への公開質問状です。CSRの取組みや、環境・社会へ配慮した融資基準導入を検討しているかなどを質問したもので、昨年11月に大手銀行6行と、大手信託銀行6行の、合計12行に送付しました。これが、大手銀行への提言の第1歩となると考えています。
 回答していただけた銀行は、12行のうち東京三菱銀行・みずほ銀行・みずほコーポレート・住友信託銀行の4行でした。それ以外の銀行は残念ながら、「ディスクロージャー紙を見てください」等の回答が帰ってきました。しかしディスクロージャー紙を見てもなかなかその内容については詳しく書かれておらず、少し残念な結果だったと感じています。
もう1つがASJからメガバンクへの10の提言です。(※10の提言挿入)この1つ1つを細かく説明はしませんが、大きく4つポイントがあるので、それを見て頂きたいと思います。

■ CSRビジョンを導入すること
 金融機関には、ボランティア的な社会貢献だけではなく、エコロジーなところにお金を流し持続可能な発展を促すという、金融機関にしかできない、本業でのCSRを果たしていただきたいと考えています。そしてそのCSRを実行する具体的な手順として、以下のものがあると言えます。

■ 環境・社会影響の深刻な事業へ融資を行わないこと
 ASJではこれを「ネガティブ・スクリーニング」と呼んでいます。スクリーニングとは要はふるいわけという意味で、融資の際に、環境への影響が深刻な事業には「融資をしない」という選択をする、ふるいわけて落とすスクリーンングの考え方を導入して欲しいと考えています。

■ 環境・社会へ配慮した企業・事業への融資を優遇すること
逆に3番目は、「ポジティブ・スクリーニング」と呼んでいるものです。例えば政策投資銀行が環境格付けを導入し始めていますが、そういった「環境によい事業・企業」をすくい上げていくスクリーニングも重要だと考えています。

■ 社会問題を解決するための事業へ積極的に融資すること
例えば貧困問題や、地域の中で介護など社会的弱者への援助を行っている事業などに、積極的に融資をすることも、これからの金融機関のCSRの一環ではないかと考えています。

ここでお話したいことの一番重要なことは、「金融機関にしか果たすことができないCSRがある」ということです。「社会問題の解決・持続可能な発展につながる企業・事業にお金を流し、逆に悪影響を与える企業・事業には流さない」ということはまさしく金融機関しか果たすことのできないCSRです。これを果たした上で、収益性や安全性をうまく確保していくということが、これからの金融機関の役目ではないかと思います。

アシードジャパン「環境・社会配慮に関するメガバンクへの10の提言」
(2005年4月13日)
アシードジャパンは国際業務を行う日本の各都市銀行に対し、以下の提言を行っています。

1. 「環境と持続可能な発展に関する金融機関声明(UNEP-FI)」への署名
国連環境計画(UNEP)の「環境と持続可能な発展に関する金融機関声明(UNEP-FI)」に署名し、環境管理システムを導入すること:

「環境と持続可能な発展に関する金融機関声明」とは、国連環境計画(UNEP)が1992年にスタ
ートさせた銀行、証券、保険など金融機関の環境・社会配慮行動のイニシアティブ。200以上の企業が署名しており、日本では三井住友、東京三菱などが署名している、みずほは検討中とのことであり、早急に署名することが望まれる。法的拘束力はないが、環境・社会配慮行動に関する方針を発表し、定期的に評価を行い、報告することが求められる。

2. 「赤道原則(Equator Principle)」への署名
Equator Principle(赤道原則)に署名し、カテゴリー分類による環境影響評価、環境緩和計画の策定を行うこと:

Equator Principle(赤道原則)とは、民間銀行がダムや発電所、天然資源開発などのプロジェクト融
資を行うときの方針を定めたイニシアティブで、2002年にスタート。約30の民間銀行が署名しているが、日本での署名企業はみずほコーポレート銀行のみで、三井住友、東京三菱も署名することが望まれる。法的拘束力はないが、世界銀行の民間投融資部門の基準が参照されており、環境影響の大きいプロジェクトを行う際に環境アセスメントレポートや環境緩和計画の策定・公開が求められている。

3. 融資したエネルギー関連事業の温室効果ガス排出量の公表
エネルギー関連事業のポートフォリオにおける温室効果ガスの排出量の削減目標を掲げ、毎年、排出量を公表すること:

温室効果ガスを2008年から2012年まで先進国全体で1990年比5.2%削減を目指した京都議定
書の目標数値を達成するためには、金融機関の取り組みが不可欠である。なお、アメリカの民間銀行「バンクオブアメリカ」はエネルギー関連で融資したプロジェクトすべてが排出する温室効果ガスを測定し、7%削減することを公表している。日本の都市銀行でこのような取り組みを行っている銀行はまだない。

4. 自然エネルギー関連事業への融資目標の設定およびその達成状況の公表
自然エネルギー(太陽光、風力、小規模水力、バイオマス、地熱など)関連事業への融資目標を掲げ、達成状況を毎年公表すること:

温室効果ガスを削減するためには、高効率なエネルギー転換が不可欠で、世界的にも自然エネ
ルギーの供給量は激増している。ちなみにシティバンクは、現段階で融資目標はないものの再生可能エネルギー関連投資のファンドを設けたり、家庭用太陽光パネル、風力発電、燃料電池設置のプログラムを用意している。

5. 違法伐採に関与する事業への融資を行わないこと
原生林の伐採、及びあらゆる違法伐採に関与する事業に融資しないことを表明し、伐採事業及び植林事業に融資する場合、第三者機関によって適切に管理されていると認証を受けた森林事業への融資優遇制度を設けること:

例え植林事業であっても、規模や方法によっては現地の生態系を著しく破壊することになるケース
が少なくない。同様の基準はシティバンクやバンクオブアメリカ、ABN AMRO、HSBCなどでも採用されている。

6. 保護地域内における生態系を改変する事業への融資を行わないこと
国際環境条約・国内環境関連法などの保護地域内における、貴重な生態系の重大な改変をもたらす事業に融資しないことを表明すること:

国際環境条約・国内環境関連法などの保護地域として、世界遺産やラムサール条約保護地、国立
公園内、環境NGOであるIUCNやWRIなどが定めた保護地域などがあげられる。同様の基準はシティバンクやバンクオブアメリカ、ABN AMRO、HSBCなどでも採用されている。

7. 国際的な労働基準に違反する事業への融資を行わないこと
国際的な労働基準であるILOの基準に違反する事業には融資をしないことを表明すること:

同様の基準はバンクオブアメリカ、ABN AMROでも採用されている。また、銀行自身においても
ILOの基準に違反する事業を行わないことが重要である。

8. ネガティブスクリーニングを導入した社会的責任投資ファンドの開発・販売
環境に悪影響を及ぼす事業や、武器製造関連事業などへの投資を組み込まないネガティブスクリーニングを導入した社会的責任投資(SRI)ファンドを開発し、販売すること:

日本で販売されているSRIファンド、エコファンド等は環境によい取り組みを行った企業を評価す
るポジティブスクリーニングによる選別であり、例えばその企業が、武器製造関連事業など他の事業で環境に大きな負荷をもたらしていたとしても、ファンドに組み込まれてしまう。欧米ではネガティブスクリーニングによるSRIファンドも販売されており、日本でもネガティブスクリーニングのSRIファンドが販売されることが望まれている。また、当然ながら、ポジティブスクリーニングによるSRIファンドの拡大にも務めるべきである。

9. 社会的事業への融資優遇制度の導入
環境、福祉、教育、災害支援などの社会的な事業を行う市民団体、NPOなどへの融資優遇制度を設けること:

日本における社会的事業を行う市民団体、NPOの資金規模は欧米と比べて非常に小さい。その
要因としてこれらの団体が金融機関から十分な融資を受けることができる制度がないことが挙げられる。これから日本の市民活動の発展・成熟に向けて、こうした社会的事業への融資を拡大していくことが望まれている。

10. 環境・社会配慮に関する取り組み等の公表
環境・社会配慮に関する取り組みと外部ステイクホルダー(預金者、投資家等)からの意見、及びその意見の意思決定への反映状況を環境報告書等で毎年公表すること:

環境報告書等の発行状況としては、三井住友はウェブサイトのみでの公開、東京三菱は2005年
度にCSR報告書を発行予定だが、みずほは特に発行する予定はないとのこと。環境報告書は、ただ発行するだけでは意味がなく、外部とのコミュニケーションによって自らの事業を改善することが重要である。したがって、自らにとって不利益な情報でも公開することが必要である。

おわりに
 本フォーラムを通じて預金者のみなさんに、金融機関やNPOバンク・SRIファンドを選んでいくという視点を知っていただければと思います。その上で具体的に「自分はどうしたらいいか?」を考え、口座を選ぶアクションをしていただきたい、つまり口座に「意志」を持たせて欲しいと考えています。
 こういった預金者の動きと、金融機関の取組みの両者が相まって、経済がもっとエコロジーに、持続可能なものになっていくと思います。

基調講演

日本経済新聞
藤井 良広氏
「金融CSR」の本質 〜本業(=投融資)を通じた社会貢献〜

 私は日経新聞の記者として10年来、金融についての取材をしております。金融機関の人間ではありませんし、CSR担当者でもないので、具体的にどのような口座や金融商品を選ぶのか、金融経営の中でCSRをどのように位置づければよいのか、といったことはお話できませんが、それはこの後のパネルにご期待いただきたいと思います。私も参加者として期待しております。ここでは、私は記者の視点からお話をさせていただこうと思います。
 去年、私は15社ほどの銀行や証券会社を取材し、金融専門紙である日本経済新聞に「動き出す金融CSR」という見出しで記事を掲載しました。「金融CSR」という言葉は、単純に金融機関のCSRを表しているわけですが、これは私の造語と自負しております。しかし考えてみると、例えば「電力CSR」という言葉はありませんよね。ではなぜ、金融だけが「金融CSR」という言葉として取り扱われるのか。それは、私が金融担当の記者であるから―というだけではありませんで、金融には他の業界とは違った社会への影響力があるからです。つまり、投資や融資を行って社会に資金を流すという金融機関の行動は、投融資先を評価あるいは審査できるという機能を兼ね備えています。
 金融機関の社会貢献を考えるときには、金融機関自体のCO2の排出量といった環境負荷への配慮だけではなく、本業である投融資を通して、社会をいかに変えていくのか、さらには投融資先企業のCSRをいかに変えていくのか、という役割を考えなければなりません。また、それはボランティア・ベースではなく、収益事業として取り組むことで、最終的には金融機関の力を高めてゆき、社会的評価につながります。そして株主や預金者はそれを評価する、つまり今日のテーマで言えば、「口座を選ぶ」ということになるのだと思います。
 このようなテーマで昨年は取材をしてきましたが、金融業界というのは特に日本の場合、CSRへの取り組みが遅れてきたと感じられます。メーカーや流通、電力といった業界では10年近く前からCSRに取り組んでいますが、金融業界は積極的な取り組みが見られたのはここ2、3年のことと思います。金融CSRの本質はお金の行き先を見据えた商品・サービスの開発および提供といった取り組みになるわけですが、それに取り組んでいる金融機関の数も少ないですし、これまで行われてきたSRIファンドやエコ住宅・太陽光パネルへの低金利サービスといったものも本業の大きな柱とはなっていません。収益性との関連もあってか、一定の需要が満たされると全くその後に動かなくなっています。昨年の私の取材はこのような動きの中で、新しいCSR商品を開発した金融機関を応援するといった意味がありました。

日本における市民金融の系譜 〜「講」、協同組合、そしてNPOバンク〜

■なぜ今市民金融なのか?
 そして、今年はさきほどご紹介いただいたように、「市民金融」をテーマに現在進行形でコラムを掲載しております。A SEED JAPANも取り上げる予定なのですが、まだそこに辿りついていませんで、本当に辿りつけるのか少し不安もあるのですが(笑)。
 さて、「市民金融」や「NPOバンク」を取り上げようと思った理由があります。これは一つの議論だと思うのですが、金融CSRというのは金融のプロである金融機関が社会的、かつ経済的に適切なところへ投融資をすることであるとも言えます。しかしよく考えてみると、果たして本当に金融機関が地域社会やコミュニティの隅々までお金を流していけるのか、あるいは地球環境に配慮した融資を徹底することが可能なのかという疑問もあります。欧米を見てみても、メガバンクと市民金融というのは共存していると思います。あの米国においてもクレジット・ユニオンや非営利のCDFI機関などが大きな組織を築いています。米国は資本主義の権化のように言われて、実際にそうだと思うのですが、一方で面白い面も持っています。貧富の格差の是正や地域開発、コミュニティの発展を目的とする非営利の機関などは、金融機関からの融資を受けられたり、税制優遇を受けたりする制度が設けられています。それは市場の需要を食いつぶさないという前提があるにせよ、そういった市民の要求を制度に盛り込まなければ政治も成立しないということなのかもしれません。西欧にもこういったコミュニティ・バンクが磐石な基盤を築いています。無論これらが全ての需要を満たして全ての問題を解決できる訳ではないのですが、日本について言えば、こういう金融インフラがあるようで、実はありません。
 繰り返しになりますが、金融CSRというのは、金融機関がその本業である投融資を通して個人や企業に働きかけるという仲介者として、あるいは営利事業体として自らの価値を向上・維持することを目的に、投融資先の企業体の持続性のみならず社会的持続性をも評価・監査をしながら、サポートするというのが原点であると考えます。その一方で市民金融というのはまず利用者、需要者という視点が先に立ちます。地域で活動するNPOは地域社会の需要を満たす働きを持っているわけですが、その資金源はどうするのかという問題があります。ホリエモンほど経済的に余裕がある人がいて、寄付してもらえればそれはいいですが、必ずしもそういう訳にはいきません。そこで募金や補助金といった組織外からの資金提供を基盤におくのではなく、NPOの組織内でファイナンスを可能にしようという志向がでてくるわけです。欧米では、こういったものがすでに根付いています。翻って日本の市民金融を見て回って感じることには、我々はかつてあった有益なものを無くしてしまったのではないでしょうか。

■日本版市民金融「講(こう)」
 日本には、かつて「講(こう)」という相互扶助の仕組みがありました。私の実家は寺でして、子供のころの記憶に講を寺で行っていた風景があります。面白いことに昔の講というのには、審査がありません。みんなでくじを引いて、当たれば融資を調達できて、当たらなければ、「今月はだめでした」ということになるのです。なにせ、当時私は子供でしたから「みんなは何をしているのかなぁ」と不思議に思ったわけですが、お客さんが帰宅した後はそのおみくじで遊んでいました。この講という仕組みは江戸時代には普及しており、実は、昭和金融恐慌や戦時の困窮下にあったときも庶民の間では行われていたのです。無担保の金融ですね。一方で、担保金融は質屋であったわけです。私が子供のころの話ですから、1960年代のことですね。

■「講」からサラ金へ
 しかし、それ以降、このような仕組みが消えていくわけです。その背景には、サラ金の普及が言えるでしょう。サラ金は1950年代末から始まって1970年代以降広がって、さまざまな問題を起こしていくわけですが。一方でそのサラ金被害の反動といいますか、一つの対処として、日本共助組合や岩手県の信用生協が創立したわけです。つまり、日本は伝統的な講というものを残さずに、サラ金という貸賃業を残したわけです。金融機関を見ますと、バブルのきっかけになった住専問題がありました。1996年ペイオフ解禁を延期する理由の一つであるわけですが、住宅金融専門会社という金融機関は本来的に住宅ローンを専門に行うわけですが、バブルによって不動産貸付に走って結果的に破綻しました。この住専が成立した背景には、銀行が当時、住宅ローンを個人に組ませてくれなかったことがあります。個人に対する貸付というのは相対的にリスクが高くなります。さらに、20年、30年という長期の固定金利というのは、銀行にしてみると大変なリスクだったわけです。そこに住専が登場したわけです。サラ金出現の背景も同様です。このように日本の金融は、リスクの大きい個人向け金融サービスは銀行などの枠外になって、その隙間をサラ金業者や別の子会社を作って補っていたという経緯があります。しかし、バブル後、銀行がやっていることは何かといいますと、その個人向け金融サービスです。住宅ローンや消費者ローンを始めています。かつて講が満たしていた需要をこういった時代の変化によって満たせれば良いのですが、だからといって、銀行のサービスが講と同じ機能を持つわけではありません。先ほども言いましたように講というのはくじ引きで融資の可否が決められていました。今の銀行はこんなことはできないでしょう。では、講はなぜ、それができたのでしょう。それは信用力です。米国のクレジット・ユニオンではそれをコモン・ボンド(common bond)といいますが、お互い共通利害を持ち合う人々が集まって相互扶助を行うわけです。同じ町内のあの家の、あのおやじ、といった具合に家柄、人柄、仕事まで分かっている講とは異なって、銀行は全くの他人に融資するわけですからそれなりの審査が必要になってくる。

■これからの日本の金融機関
 米国のクレジット・ユニオンも、西欧のコミュニティ・バンクも監督機関は金融庁ではありません。だからといって運営基盤がしっかりしていないわけではなくて、自己資本比率や回収率は一定の水準を保っています。ではなぜ、日本ではそういった形ができないのでしょうか。政治で地方分権が叫ばれている中、信用組合の併合の進行など、金融ではますます中央集権化が進行してしまっているというのが現状です。それは金融危機に対応するためだった訳ですが、これからは危機対応から平時対応という方向転換の中で、多様な金融が認められてしかるべきです。国は今、資金難ですし、もともと限られたことしかできません。したがって、金融は金融機関に任せて、さらに既存の金融機関ではまかないきれないサービスをどのような形で地域社会へ提供していくべきなのかという議論が必要になってくるわけです。

金融CSRと市民金融のリンク 〜金融のプロの参画を〜

■ 金融機関とNPO
 市民金融の取材を進める中で思うことというのは、金融機関の金融CSRと市民金融というものは互いにリンクしているということです。もちろん、その規模の大小や、主な融資先が企業であるか、コミュニティであるかといった相違点がありますが、両者は互いに接点を持っています。金融CSRの一つには、社会的需要を満たすことを目的としたNPOに対する貸付があります。地域活性化という課題や老人介護などの福祉NPOに対する需要が近年、特に地方で拡大しています。それまで行政の仕事であったこれらは、すでにNPOと連携、あるいは委託しようという大きな流れがあります。これらのNPOの立ち上げ資金を行政が負担する市民金融のケースが北海道や長野の例となるわけですが、その後の運営費に関して既存金融機関からの借り入れ、すなわちNPOローンが行えると良いと思います。これは労金さんが一番熱心に行っていて、最近その動きが徐々に広がっていると思います。

■ 金融機関と市民金融
しかし社会的に必要とされる事業に対する融資の全てを金融機関が担えるかと言いますと、それは現実的ではありません。金融機関もその投融資によって利益を上げなければならない訳ですから、投融資先にはその経済的価値、事業性を求めていかなければならないでしょう。こうした中から既存金融機関と市民金融との連携といいますか、提携が重要になってくると思います。つまり市民金融が受け皿となりうるということで、既存金融機関が融資やその他の協力を行うわけです。例えば、長野の夢バンクさんでは、地元金融機関の方からボランティア・ベースでの審査協力を得ています。また、岩手の信用生協はサラ金の多重債務者に対して融資を行っていますが、その資本を銀行から借り入れています。こちらでは、無担保で融資をしていますが、お互いの信用力によって焦げ付いていません。

■ 海外における金融機関と市民金融の関係
 欧米ではこういった連携が一つの仕組みにまで発達しています。米国では金融CSRを行っているシティ・グループやバンク・オブ・アメリカなどが自らから社会的なプロジェクトに融資もしますが、それだけではなく、途上国でのマイクロ・ファイナンスにも関わっています。今年は国連のマイクロ・ファイナンス年であるそうですが、地域社会で住民の生活設計に活用する小額融資は、バングラディッシュのグラミン銀行が有名ですね。それを模範して、上記の金融機関などはマイクロ・ファイナンスのファンドを創設してもいます。また、イギリスの金融機関では、金融CSRの一つの手法として、ホームレス救済のために、銀行自身がホームレスに何かを施すのではなくて、ホームレスの自立を支援するNPOに融資します。住所不特定者であるホームレスは口座を開設できないことが大きなネックとなっていますが、このようなNPOはコミュニティ・バンクとしてホームレスに金融サービスを提供して、それを元手に社会活動を始める支援をするのです。

■ 金融のプロの参画
 また、融資だけではなく、人材の提供という分野でも米国ですと、審査のプロであった人々が定年後に非営利金融機関でボランティアとして働くことが常ですし、また、現役の金融機関の人々であってもある程度の年齢を越しますと、一つの業務として非営利の金融機関や財団で働き、その対価は勤め先からの給与として出るという仕組みもあります。CDC(Community Development Corporation:コミュニティ開発法人組織)というのは個人でも企業でも作れます。つまりCDCを銀行が作ってもいいのです。金融機関で経験を積んでいる、「お金を回すことが自分たちの仕事だ」と思っている人々を人的資源として、社会的事業に活かせればさらに良いのだろうな、と考えています。欧米ではこのような金融機関と市民金融の連携が一つの仕組みとして根付いています。地域が必要としている介護の形とはどのようなものなのか、ホームレスが自立するためには何が必要なのかといったことを日々考え実践して経験を積んでいるNPOと、金融のプロである審査やファイナンスを職業とする金融機関の連携は金融CSRの中で大きな位置を占めるわけです。つまり、金融機関にとっては、そういったNPOとの連携に際して、事業性を考慮した上でお互いの信用をいかに築くのかということが重要になってくるのではないでしょうか。日本ではまだ、その方向性が見えてきた段階であって、大きな流れとなるためにはもう少し時間が必要だと思います。

■ 金融の中央集権化の課題
私の試算によると、日本には15億ぐらいの口座があります。つまり、日本国民は複数の口座をたくさん持っているのですね。しかしそのうち1兆円ぐらいは睡眠口座になっています。長い間出し入れされていない口座です。この1兆円ほどを目標に口座を変えるアクションを行えば、社会も変わるかもしれません。しかも、現在はデフレです。デフレの唯一の長所は、金利がつかないということです。こんな時には、「働いてもいないのに、金融機関にお金を預けるだけでお金が増えるなんていうことは、おかしいことなのではないだろうか」とも考えられるかもしれません。これはエコ貯金プロジェクトの追い風となるでしょう。普通であれば、銀行にお金を預ければ金利がついて、経済的な価値、配当があるわけです。しかしこのデフレではそれが見込めないので、元本も保証されてはいない市民金融に出資をして、コミュニティの活性化や自然保護というリターンを受け取ることも選択しやすい環境であると思います。もちろん市民金融であっても法律上は元本保証が言えないだけであって、それをきちんと管理する組織があれば、実際には経済的な配当が薄い場合でも元本は還ってきます。そして社会的な配当を得るということですね。これは綺麗事に聞こえるでしょうが、このような仕組みが描けなければ地域で地域のお金が回っていかないという現実があります。しかし、市民金融について地域を取材していまして、一番難点であると感じることがあります。実は、地方であればあるほどそういった社会的な事業に対してお金を出す人というのは多いのです。しかし、そのお金を活用して、自分で何かをしようというアイディアや行動力を持った人々が大変に少ない。さきほども言いましたように日本では、地方自治という流れとは反対に、金融の中央集権が温存、強化されています。東京という大都市は確かに大きな役割を担っているとは思いますが、地方のお金を東京が使うのはお金が地方で回った後でもいいわけです。それだけの富が日本にはあります。日本は赤字の双子を抱えるアメリカとは違って、マクロでみれば富が蓄積しています。地域のお金を地域で回して、そしてその余剰を東京に、さらに言えば世界に目を向ける、こういったことを仕組み、制度にまで昇華させることが重要です。

金融商品の需要側と供給側、その相互作用と先にあるもの 〜「市民の視線」〜

■ 金融機関の改革、業態を超えた金融商品
 金融担当の新聞記者―実は私は編集委員なのであまり記事を書く機会がないのですが―が書く内容というのは、メガバンクや地銀の併合、あるいは業界を超えたビジネスの融合であるコングロマリットといったものです。このような風潮も社会にとって一つの大きな意味を成していると思います。「業態」という言葉を我々はよく使うのですが、「銀行業態」、「証券業態」など、業務によってさまざまな規制もありまして、サービスの仕方などそれぞれ異なっていたのですが、それが現在では変化しています。今や、銀行グループの傘下に証券子会社があり、銀行や投資信託の窓口で保険商品を販売するなど、業務の融合が見られます。これまで金融庁の動きを始めとして、金融の大きな流れというのは金融機関の不良債権処理をいかに進めるかということがテーマになってきました。しかし今年4月にペイオフが全面的に解禁された後は、金融庁の改革プログラムでも業態を超えた市場形成がテーマになっています。
■ 金融機関の改革と市民の需要
 銀行、証券、保険を問わずさきほど言いましたようなアイドル・ファンドのようなものをどの業態でも開発・販売を可能にしましょうということになっています。これは金融商品の進歩であるとともに、その購入者である私たちにとっても金融商品の良し悪しを自ら判断・評価して選んでいかねばならないことを意味します。金融商品の供給側である金融機関の改革は、その需要側にいる私たちの行動を予測してあらゆるもの―コーヒーまで用意しているところもあるのですが―をそろえて、その一箇所だけですべてを済ませられるようなリテールの提供という一面を持っています。欧米では、ワン・ストップ・ショッピングと言いますが、それはあくまで一つの販売形態だと思います。考えなければならないことは、金融商品の供給側だけが改革をしても、本来の私たちの需要が満たされることはないだろうということです。
■ 「市民の視線」が銀行を変える
 金融CSRにしても、市民金融にしても、重点が置かれているのは、「利用者」「需要者」です。このA SEED JAPANの活動が全国に広がれば、口座がころころ変わってしまうわけですから金融機関は大変です。3億ぐらいはたいしたことはないのですけれど(笑)。それが300億、3000億となっていくのだと思いますが。私も最近、人々の意識が変化していると感じます。市民金融の周辺にいる人々を取材していくと、自分のお金を使って、あるいは人のお金を集めて「変えなくちゃ。このままではやばいよ」という意識を持って、それが行動につながっていると感じます。しかし一方で、ペイオフ全面解禁時には一般預金者にはあまり意識の変化が見られなかったように感じます。確かに個人国債の購入が増加したり、中国ファンドをインド・ファンドに変更したりという動きというのはあったわけですが、いずれも小さい動きでした。そもそもペイオフ解禁は1995年にその延期が決定されて、10年を経た今年に施行されたわけです。しかし当時の大蔵省の人に話を伺いましたら、「バブルの影響を受けた金融機関の回復も3年あれば可能であろう」という見解でいらっしゃいました。しかし余裕を持って猶予期間を5年として、96年実施を2001年に繰越すということだったのですが、実際は10年を要しました。それに対する説明というのは、「金融機関の不良債権を軽くするだけであれば5年で可能だったのだが、実はこの背景には日本経済社会が戦後に抱え込んでいた構造を変革しなければならないという、制度疲労という問題があった」というものでした。言い訳ともいえますが、この言い訳も必ずしも的外れなわけではありません。この問題では銀行にばかり焦点が行きがちですが、先ほども触れましたとおりに銀行というのは金融活動を通して経済社会へ資金を提供するものです。したがってむしろ、その経済社会のあり方が銀行に与える影響が大きいのは当然ともいえます。
 つまり需要者、つまり経済社会が変わり、銀行を変えるということも可能なのです。例えば、地球規模で企業活動を行う金融機関に対して、著しい環境破壊を伴う開発に融資をしないことを求めるという動きがすでにあります。需要者はそういった開発などを詳細に検査や監査できませんが、金融機関はそのチェック機能を持っています。環境破壊を伴う国土開発は、かつては日本でも見られましたが、最近では途上国でのケースがあります。こういったものは経済的・政治的な合理性を求める途上国の政府には必要な場合もありますが、融資者である市民の視線からその開発プロジェクトを評価することを金融機関は求められているのです。

「みんな、気づいている。だから、行動へ」

 最後になりますが、apバンクについて感じたことがあります。ミスターチルドレンの桜井さんや作曲家の小林武さんらが創設した市民金融ですが、小林さんには直接お話を伺いました。彼らは芸術家ですから、さすが、表現力が豊かといいますか、こんなことを言っていました。「みんなが気づき始めている」と。確かに、彼らは気づき始めていますし、金融機関の人も気づき始めています。もちろんこのようなフォーラムに足を運ぶみなさんも当然気づいているのだと思います。そうなれば、やはり、気づいた後は行動ですよね。自分で始めるのもいいし、誰かがやっているのを応援してもいい。現在、日本の経済社会は全体として疲弊しています。私たちはそれが疲弊しているということは分かっているのだけれども、その疲弊した社会の中で何を見出してやっていくべきかという課題があります。従来は、このようなことはすべてお役所任せで、「税金を払っているのだからやっておいてね」という感覚があったわけですが、実際にはお役所は私たちが気づいていることを気づいてもいないのです。日本の役人は、社会的に必要とされ、かつ環境保護の観点から当然に適切だと思われるところに資金を流す仕組みを再構築するという視点を持っていないのが現状です。それは当然といえば当然なのかもしれません。お役所の人間というのは金融を実際に行ったことがあるわけでもありませんし、やはり、金融のことは金融機関が知っている、あるいは融資先がある程度知っているわけです。つまり民間の世界ですよね。ですから、民間の力が発揮できるように変えねばなりません。行政は本当のレフェリーとなってしかるべきであります。気づきを行動に移すことの一つが「口座が変われば、社会が変わる」という今回のフォーラムのテーマでもあると思います。今回の様に、このような多くの金融機関の方々がパネラーとしてお越しになることも前代未聞ではないでしょうか。きっと有意義な議論になると思いますので期待しております。それでは、私の話はこれで以上にしたいと思います。


パネルディスカッション

預金者が選び、参加し、創る銀行

【コーディネーター】  

A SEED JAPAN 木村 真樹
【パネリスト】  
  A SEED JAPAN(理事 田辺有輝)
女性・市民信用組合(WCC)設立準備会(代表 向田映子氏)
多摩中央信用金庫(業務部主任調査役 長島剛氏)
中央労働金庫(営業推進部NPO推進次長 山口郁子氏)
東京三菱銀行(総合企画室CSR室次長 田貝正之氏)
三重銀行(審査部 土方研也氏)
 
【司会(A SEED JAPAN木村)】
 藤井さんありがとうございました。パネルの司会を勤めさせていただきます木村です。今回のパネル・ディスカッションの位置づけについて説明させていただきます。
 オープニングでは企業活動の影響力が拡大しているということを背景として、「社会性・健全性・サービス性」という3つの観点で口座を選ぶということがエコ貯金であると説明させていただきました。そしてエコ貯金チームの土谷から金融機関の方々に対する提言を発表させていただき、日経新聞の藤井さんからこれまで取材経験を元に金融機関のCSRについてお話をいただいたという流れになっています。そこで、このパネルでは、土谷から提言させていただきました3つの点について、各金融機関の方々から意見を出していただきたいと考えております。まず一つ目は金融機関のCSRビジョン、二つ目は、融資をする際にふるいをかけるというスクリーニング、最後に社会的事業にお金を流していくという資金提供をテーマにパネル・ディスカッションを進めて参りたいと思います。
 「預金者が選び、参加する金融」を伝えていくというフォーラムは日本でも初めての試みではないかと考えております。このようなフォーラムに参加するということも一つの対話であると思いますし、新たな金融の流れをみんなで作っていこうということでもあると思います。私はかつて地方銀行で融資を担当していました経験と現在、A SEED JAPANを拠点にNPOバンクの設立を準備しております関係で今回は中立的な立場での進行役を頂戴いたしました。よろしく御願いします。なお、今回のフォーラム参加者について一言お知らせいたしますと、事前申し込みは100名以上に上り、金融機関関係者、NPO・NGO活動家、企業のCSR・環境対策の担当者、そして学生と幅広い層からご参加いただいております。

金融機関のCSRについてのメッセージ

【司会】
 さっそくではありますが、パネリストの皆様から金融CSRに対するお考えと実際に携わっている事業についてのご説明を中心に自己紹介をしていただきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。

【多摩中央信用金庫 長島剛氏】
 多摩中央信用金庫の長島です。よろしくお願いいたします。今回のフォーラムは、 ここから見渡しますとまるで就職活動中の学生を対象とした企業説明会のようで少 し緊張しております。まず、金融CSRに対する考えた方です。当方の会社でも CSRに取り組んでいるというものの、組織内にCSRに関して理解している人という のはほとんどいません。しかし、我々は地域に密着した金融機関でありますので、 お客様である地域の生活者の方々あるいは中小企業の方々を訪問し、みなさまの悩 みを一緒に解決していくということを本業として行っております。この本業こそが 地域貢献活動であると捉え、信金ではなく、「地域の企業」でありたいと考えなが ら活動しております。

【東京三菱銀行 田貝正之氏】
 田貝です。よろしくお願いいたします。金融機関というものは、例えば日本中の ATMが壊れればそれだけでパニックが起きるわけですから、日常業務を行うことが 社会的なインフラを提供するという点ですでに社会的な責任を果たしていると誤解 している人間が社内にも多くおります。しかし、これからは社会的な課題、それま で行政が行うと思われていたものですが、企業が取り組まなければならない時代な のだと考えております。その中で銀行としての役割、そして東京三菱としての特色 ある役割があるのだと思っております。このような背景で、A SEED JAPANのアクショ ンは1兆円は難しいと思いますが、2千億円ほどは可能だと思いますので、その点 についても後ほどお話したいと思います。

【女性・市民信用組合(WCC)設立準備会 向田映子氏】
 私たちの活動は、金融機関というのは一つのブラック・ボックスであって、預金 してもその先がよく分からないという気持ちで始まっております。子供のころに私 たちがお年玉をもらったりしてお金を手にしますと、貯金したり預金したりするこ とがいいことだと言われておりまして、預貯金することばかりに気にしておりまし た。しかし、本当は、その預貯金が何に使われ、どのように活かされるのかという ことがとても重要なことであるのに、それを私たちは求めないでここまで来てしまっ たわけです。その点でCSRという言葉はまだ私たちになじみのない言葉ですが、金 融機関は今後、どのような経営理念で、どのようなところに融資をしているのか、 預貯金を何に活用しているのかということを預貯金者にもっと情報提供することが 必要になってくると思います。また、ディスクロージャー誌が発行されております が、とても分厚くて、中身を見ても専門用語ばかりでとても理解できないものです。 より分かりやすい言葉で説明する責任があるのではないでしょうか。
 お金の問題というのは社会に生きる全ての人々に関係するわけですから、そのお 金を融通する金融機関というのはとても大きな役割を持っていると思います。現在、 NPO法人の数が増加しておりますが、事業の立ち上げや運営に際してお金に困って いるNPOも多くいますし、そういった事業に対する融資に積極的に参画することも 必要であろうと思います。

【三重銀行 土方研也氏】
 三重銀行の土方です。三重銀行というのは、首都圏にお住まいの皆さんには、あ まりなじみのない銀行かと思いますので、少し説明しますと、四日市市に本店を置 く地方銀行です。サーキットで有名な鈴鹿ですとか、三重県の北部から愛知県にか けまして営業を行っております。
 金融機関のCSRについてですが、地方に行きますと、地方銀行というのは意外と まだまだ大きな影響力を持っています。ですから、地銀がなんらかの行動を起こす ことによって、地域社会で見られる変革の兆しを支援し、あるいはそのような動き がなければ自らが創り出して運営していくということが地銀のCSRとして大切なの ではないだろうかと私は考えております。

【中央労働金庫 山口郁子氏】
 中央労働金庫の山口です。いよいよ、金融機関もアイデンティティが求められる 時代になったと感じております。お客様からお預かりしたお金をどのような意図で 使っていくのか、金融機関として融資という事業を通して何を実現したいのかとい うことを提示して、またそこからどのような成果が得られるのかということを皆様 に明瞭に伝えていかなくてはならないと考えております。また、社会的ニーズや資 金需要がどこにあるのかということを私たち職員がアンテナを高くして、見て、聞 いて、会社に新しい風を取り入れるという、金融で働く者の責任が問われる時代に なってきたとも感じます。預金者の方々との信頼、また社会の中での信頼を一番大 事にしていきたいと考えています。

【A SEED JAPAN 田辺有輝】
 私たちA SEED JAPANの金融CSRについての考えについてご説明したいと思います。 私たちは金融機関、特に投融資を行う銀行のCSRとはどうあるべきか、ということ を議論したものを表にまとめました。ご覧ください。CSRの「R」とは、 responsibility、責任ということですから、責任というからには、どういった責任があ るのかということを縦軸に3つ項目を設けました。法人としては当たり前に果たす 責任範疇であって、違反すれば刑罰が下される法令順守、本業である投融資を介し た社会的責任行動、それとは別に、利益をどのように活用するのかということで社 会貢献活動です。また、横軸にはその社会的責任を果たす対象、ステイクホルダー を3つの項目に分けました。預金者・投資家、融資先、被雇用者を始めとした銀行 本体です。

【司会】
 一言だけ付け加えますと、A SEED JAPANでは、プレゼンテーションにもありましたように、金融CSRの中でも金融機関、銀行だけができること、本業である融資業務にCSRの観点を盛り込むことを求め、提言させていただいております。こちらの表にもありますようにCSRと言ってもさまざまな形があり、それは幅広い範囲にわたると思います。

金融機関のスクリーニング(融資先のふるいわけ)について

【司会】
 パネリストのみなさまから今CSRについてのお考えをお聞かせいただきましたので、次はこの融資を通じたCSRである「スクリーニング」、つまり社会的観点から融資先をふるいにかけることについて、長島さんと田貝さんからお話していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【長島】
 わが社は一昨年に70周年を迎えまして、その際、昔の資料を紐解くことになり ました。昭和8年、立川において信用組合として開業いたしまして、その後に信用 金庫となったわけですが、やはりそこで講の話が出てきます。地域でお金の貸し借 りが難しい時に、お互いの資金を融通し合おうという発想で始まりました信用金庫 でございます。そして先ほどの藤井さんのお話ではないのですが、信用金庫となっ た後に地域が都市化するに従って、どうしても都市銀行に追いつけと、、、追いつ くはずがないのですが、そのような感覚で運営しておりました。しかしここ数年は、 そうした事業だけをしていては、地域にとっては意味がないということに気づきま して、そこで大きな方向転換をいたしました。
 多摩地区は東京都に位置しておりますが、大学が70以上、研究・開発型企業が 多く在地しています。また、立川から新宿までは、立川から奥多摩へいくのでは同 じ程度の時間で行けます。多摩地区は30の市町村からなっておりまして、その中 多摩中央信用金庫は立川の本店を中心に出張所を合わせまして50の店舗がござい ます。また来年の1月には太平信用金庫及び八王子信用金庫との合併がございまし て、84の店舗を抱える金融機関になる予定でございます。そうなりますと、多摩 地区最大の信用金庫となります。
 私は外回りをしていますと、自分が「地域のコンシェルジュ」の役割を担ってい ると感じます。個人のお客様を担当して外回りをする職員は291名おります。多 摩地域には400万人ほどの方がいらっしゃいまして、私たちは外回りで色々なお 話を伺います。もちろんその際には資金運用や商品についての説明をしますが、一 番多い質問というのは「隣の松ノ木が敷地内まで伸びてきたのだけど、どう対処す ればよいかしら」ですとか、「隣の奥さんと近所づきあいがうまくいっていないの だけど、どうすればいいと思う?」といった類のものなのです。それで「コンシェ ルジュ」という言い方をしているのですが、こういった日々の生活での困りごとで ある税金ですとか、介護の話を聞きながら問題を解決していくというのが地域金融 機関の役割であろうと考えています。また、法人のお客様を担当する職員は、14 4名がおります。法人会社数に関しまして統計上は13万社と発表されていますが、 中小企業は実際にはそんなにありませんで、6万〜7万社であろうと想定されてい ます。我々はその中小企業の方々のために、展示会の催しを始めとしたさまざまな ことをしております。
 地域での循環についてのお話がありましたが、このテーマはわが社にぴったりで あると言えます。先ほど多摩地区には400万の方が在住しておりますと言いまし た。そのうち100万〜110万の方とお取引をさせていただいておりますが、こ の個人のお客様と法人企業のお客様に対して情報をお届けする活動を行っています。 「地域で集まったお金は地域で使われますので、ぜひ預金してください」「この地 域で集まったお金はこのように使われます」とご説明することで、地域でお金が循 環していきます。また、職員のほとんどがその地域に在住しております。私も八王 子に住んでいるのですが、町を歩いていると昔融資した社長に会ってしまったりし ます。奥さんとはもっとよく遭遇するわけですが、こういった状況であると、悪い ことなんてできないわけです。さきほど「スクリーニング」という難しい言葉があ りましたけれど、このように通常の点検をやっていれば、地域のためにならないこ とはしませんよね。基本的にそういったところに融資をするというシステムにはなっ ていません。
 また、美術館、図書館などを所有・開放しています。このように、生活の場、ビ ジネスの場としてこれからも発展し続ける多摩地区を一緒に歩いていこうと思いま すので、よろしくお願いいたします。

【司会】
 実は私も多摩地区に住んでいて、大変興味深くお話を聞かせていただきました。その自分も住んでいる「地域の目」そのものがスクリーニング機能を持っているということでした。ありがとうございました。続いて田貝さん、よろしくお願いします。

【田貝】
 今、多摩信さんのコミュニティ、地域社会への貢献という点を色々な視覚素材を 用いて説明していただきましたが、わが社の場合、そのような各支店で行っている ことを今日はご紹介する用意ができておりません。私のプレゼンテーションは2枚 のスライドを用いて「銀行とは」というテーマで行いたいと思います。二枚目のス ライドは、「公式には、銀行がどのように見えるか」をあらわしたものです。公的 な目で見ると、銀行はこのように見えているだろうという内容です。一枚目は今年 の東京三菱の新入行員向けの研修教材の一つなのですが、金融の根本がどのように 変化しているかを説明しようとするものです。
 まず、一枚目のスライドについてです。金融庁との関係のお話をする場合には必 ず、「銀行法とは」ということになります。さきほども業態というお話がありまし たが、各業態によって法律が定められていて、銀行もその法律のレールに乗っかっ ているということです。ここに銀行法第一条の条文が手元にあるのですが、その文 句としては「銀行業務の公共性にかんがみ」だとか、「預金者の保護」を意識した 法律です。それには昭和初期に銀行が非常に無責任な貸し出しをしまして、その結 果預金の引き出しができなくなったという背景があります。そして、「預金者にちゃ んと預金が返るように銀行をちゃんと監督しなくてはならない」という枠組みがで きたわけです。
 次に銀行法21条では、「だから、預金者を安心させるために銀行業務の内容を 預金者に説明しなくてはいけませんよ」と「業務報告書の縦覧」という難しい言葉 を使って言うのですが、実はIRと呼ばれる株の投資家への説明以前に銀行は業務報 告書といったものを店頭において、今ですと業種別貸出の明細のようなものも含め て説明をしています。しかし、先ほど向田さんがおっしゃられたように、業務報告 書には数字ばかりが並んでいて、人が見ても何のことだか分からないに違いないだ ろうとは思います。
 銀行の役割、社会的使命というのは皆さんがおっしゃられるように金融仲介や決 済システムが基本です。またディスクロージャーに関しても、預金者が理解できる ものでないといけません。例えば、城南信用金庫さんのディスクロージャー誌とい うのは何種類かあって、その中には漫画で書かれているものがあって非常に分かり やすいものです。可能であれば、わが社の社会環境貢献活動についても漫画で書か れた分かりやすいものができたらいいなと思います。
 次は、融資、投資のお話をします。融資というのは、例えば、企業に貸し出すお 金、つまり企業から見ると借入金ですが、これはその企業が潰れたときに裁判所が 一番初めに返してくれますが、優先弁済権といいます。次に、出資、投資と言われ る、つまりは株ですね。これは、企業が倒産した際に、銀行が貸出金を回収し終わっ て、まだ残っている財産があったらそれで回収できるというものです。その代わり に値上がり益も配当金ももらえるわけです。このようなリスクを進んでとる人が株 主となっていて、そこまでのリスクが取れないと思えば融資をするわけです。銀行 は融資をするわけですから、審査をする目線というのがあります。「あなたは、何 を目的として、どのような事業を行って、どのようにお金が回っているのですか?」 といった質問に、ちゃんとした答えが返ってくれば、それでお金が回って返済され るわけですから、当然お金は貸しますよね。そして、ちゃんとしたお答えがなけれ ば、基本的に融資するということはありえない、と思っていただいてよいかと思い ます。
 どこからお金が入って、どこへ出て行くのかということがちゃんと説明できれば よいのです。「NPOだから融資しない」とは銀行は言っていません。このフォーラ ムで議論されているのは、「社会の問題ってなんだろう、環境問題は、地域の問題 は」という「問題」が出発点であって、「銀行」が出発点ではありませんよね。社 会には色々な問題があって、その問題を解決する当事者は多くいて、銀行はその一 つであるわけだから、銀行は今まで以上に色々なことができるのではないか、とい うことだと思います。それでは具体的にどうするのかということになるわけですが、 今週火曜日に今年採用されました新人555人を集めて一時間半のワークショップ をしました。ここでは社会目線の非常に良い議論が多く出てきました。いまから入っ てくる世代が銀行を変えてくれるということを私の回答に変えさせていただきたい と思います。


【司会】
 ありがとうございます。私が銀行にいたのは2年半前ですが、そのころにそのような研修はなかったのでうらやましいなと思いました。A SEED JAPANの田辺から何かコメントがあるようでしたら、お願いします。

【田辺】
 まず、長島さんにお聞きしたいことがあります。ここ10年ほど大きく変化して いる郊外の経済の動き、「超郊外化」についてです。戦後に鉄道が開設されて、そ の後商店街などは駅周辺に立地し、国道が整備された後には土道路沿いにも商店が 集まるようになった。郊外の経済というのはこの駅周辺、また道路周辺の商業圏が 大きな位置を占めていたと思いますが、ここ10年ほどは郊外のさらに奥まった地 域につながるバイパスですとか高速道路が建設されて、それが脅かされているとい う問題があります。つまり、超郊外に外資などの大型巨大スーパーなどができて、 地域経済の核となっていた商店が閉店に追い込まれているということです。多摩信 の多摩地区というのは東京のベット・タウンという位置づけが大きいこともありま すので、典型的な郊外とはいえないかとは思いますが、このような問題にたいして 地域金融を担う金融機関としてどうお考えかをお聞かせいただきたいと思います。
 また、田貝さんへの質問です。これまでの銀行というのは、法律に違反していな ければなんとかなって、社会的にも追い詰められることはなかったわけです。しか し、法律を守っていても、社会的な問題が次々と顕在化してきたのがここ十数年の ことではないだろうかと思います。たとえば環境破壊であったり、法律の下でダム を建設してもその下流の住民の生活を脅かすことになったりといったケースです。 このような法律を守るだけでは社会問題の発生させてしまう状況で、自ら融資基準 を設けてそういった問題をいかに抑制するかという姿勢が重要だと思います。つま り、あまりに社会的影響力が大きいものを脅かすような事業には融資しないという ネガティブな基準を持つことを銀行に求めていきたいと私たちは考えています。こ のようなネガティブな基準をもって、融資先をふるいにかけるネガティブ・スクリー ニングを取り入れる動きが、欧米の主要な金融機関を中心に広がっています(※ネ ガティブスクリーニングの事例表を挿入)。社会的、環境的な影響が多大なプロジェ クトに関しては融資しないことをあらかじめ約束する金融機関が増え始めているの です。日本に関していいますと、国際的なプロジェクト・ファイナンスに関しまし ては金融機関よりも商社が多く参加しているというのが私の感触でして、それもネ ガティブ・スクリーニングの取り組みが遅れている要因の一つであろうとは感じて おります。しかし、欧米の銀行では、ネガティブ・スクリーニングの他にも、自ら のエネルギー消費の消費量を公開した上でその削減に取り組むですとか、植林事業 に関しては第三者から持続的開発であることを認証されたものに限って融資すると ころが増えています。それは違法伐採といったネガティブ・スクリーニングだけで はなく、さまざまな基準をつくってさまざまな次元で社会環境貢献を本業で行う動 きです。こういった風潮がある中で、国際的な業務を展開しているメガバンクとし て、大規模な海外プロジェクトに関しましてどういった姿勢で取り組んでいるのか ということをお伺いしたいと思います。

【長島】
 確かに八王子など、交通の便がいい地域には大型店の出店が進んでいます。 そして、それに伴い駅前の商店街やデパートが衰退する、という事例も数多 く起きています。こうした中、地元で買い物をしよう、地元を活性化しよう、 という「エコ貯金」的な動きは、私も起こってほしいと思います。しかし、 地元だからといって古くて高いものを買うでしょうか。地元企業でも、努力 をしなければ、市場から撤退せざるを得ないのは仕方のないことだと思いま す。
 やはり、この町に住んでいて良かった、と思えるような店があり、企業が あり、そこに人が増えることで、街が活性化します。今では生活の場である と同時に、ビジネスの場になっている多摩地域ですが、住みやすく、仕事も しやすい街として活性化するための支援をしていきたいです。

【司会】
 常に地元に対する視線をお持ちなのですね。続いて、田貝さん、ネガティ ブ・スクリーニングについていかがでしょうか。

【田貝】
 本日の資料に、環境や人権に配慮した融資基準を設けた海外の大銀行が紹 介されていますが、それは、違法伐採に融資してきた欧米の銀行がいたから にほかなりません。日本の銀行は、資源国収奪の歴史をそれほど持っていな いので、出発点が違うと思います。しかし、昨今では悪いことをしていない ことをはっきり言わないと「きっとやっているに違いない」と思われる風潮 があるので、東京三菱では環境方針と社会・環境的な融資の代表的事例をホー ムページで紹介しています。
 ネガティブ・スクリーニングという言葉は使いませんが、銀行が行っては いけないことについては銀行法などで数多く定められているので、ある面で はかなりのものが排除されているものと思ってください。他方、こんなこと が言えると思います。例えば手元のこの紙も原料には違法伐採の木材が混じっ ているかもしれません。もし、みなさんがこの紙を買わなければ、木材を輸 入する商社や製紙会社の事業が成り立たなくなり、その企業に融資をするこ とはできません。ところが「社会的に悪い面もあるが、みんながその商品を 買っている」という状況では「それは社会的に認められており、しかもお金 もついて回っていて、きちんと回収もできる」と銀行側は判断します。最終 的に融資基準を決めるのは社会なのです。また、バブル時に「最大限に環境 配慮した設備です」と立派な設備を披露してくださった社長さんが多くいま したが、どんなマーケットにどんなシェアを持っていて、この設備を使って どう利益を上げるのか、と聞いてもきちんと答えられない。肝心の本業がお ろそかになっていたのです。
 その反省に基づいて、現在銀行としては、借り手である企業がどのように 本業を考え、どのように社会的責任を果たそうとしているのか、それによっ てお金がどう回るのかを審査しましょう、という流れになっています。銀行 としての本来の姿に戻りつつあるのだと思います。

【司会】
 アリスセンターの『たあとる通信』16号でも、公共性と収益性のバランスをどうとっていくかが金融機関の課題と指摘されていますが、東京三菱さんもまさにそのバランスをとり始めていらっしゃるのかと思います。
 次に、他の金融機関の方にも融資審査の際のポイントとそれにあたっての取り組みを伺いたいと思います。向田さんからお願いいたします。

【向田】
 融資基準については、地域社会を豊かにする事業かどうかが最大のポイントです。 私たちは神奈川県という地域に融資先を限定していますが、それは地域の中で助け 合いたい、という理由に加えて、融資する際に大事なのは情報だからです。同じ地 域であれば、その事業が地域の中でどう役立っているか、採算性や継続性が担保で きているか、という情報が集めやすく、コミュニティのなかにいなければわからな いことも多いのです。北海道や九州にまで調査をしにいくわけにいきませんからね。
 また、何よりも大切なポイントは「何としてでもやりぬくぞ」という、事業に関 わる人たちの気構えですね。アメリカのコミュニティバンクで調査をした方から、 融資にあたって最も重要なことは、やっている人たちの性格だという話を聞いたこ ともあります。

【土方】
 私は審査部で、普段は第三者保証なしの無担保ビジネスロ−ンなど、各種貸金審 査を担当しています。そうした立場から申し上げると、銀行が審査にあたって最も 気にすることは、「融資先が結果的に悪さをしてしまった」という事態です。こう した場合、銀行は世間から非常に叩かれるため、融資には慎重になります。NPO団 体への融資については、地域に必要な事業であるならば、NPO団体であるというだ けで制限しているわけではありません。しかし正直に言って、とっつきにくい、と いうことはありますので、銀行側もNPOのことをよく知って、お互いに歩み寄って いくことが大事だと思います。

【山口】
 中央ろうきんがNPOに融資する際には4つの基準があります。@経営評価。代表 者の考えや団体のミッションです。A組織運営。理事会の機能や、民主的な意思決 定が行われているのか、理事の経験などです。B事業評価。その事業が地域の中で 果たす役割はどんなものか。C財務評価。事業の収支の状況です。C財務評価以外 は、数値化することがまだ難しい部分です。NPOといっても多様な事業や形態があ るため、必ず現場に足を運び、理事会メンバーや代表者に会っています。それでも、 金融機関だけでNPOを見極めるのは難しいと考え、中間支援組織やNPOバンクとの 連携が必要だと思っています。そして、情報セキュリティには十分注意しながらで すが、ノウハウや情報を共有し循環させることで、大きな可能性が広がると思いま す。

【司会】
 それでは、ここでフロアとの質疑応答の時間を設けたいと思います。

【フロア】
 田貝さんにお伺いします。新入社員研修の中ではどんな議論を促したのでしょうか。

【田貝】
 新入社員は銀行で数多くのルールを覚えていく中で、銀行員目線でしか物事を見 られなくなります。今回の「チャールズ・マサンバの話」を用いた研修の狙いは、 彼らにもっと広い視野から、社会のさまざまな問題に対して銀行がどんな役割を果 たすことができるか、その可能性を考えてもらうことです。「融資をする前の段階 で持続可能な国の発展のあり方を考えねばならなかったのではないか」「日本には 金融資産があるから、途上国等の社会開発ファンドを作って公募してはどうか」と いった議論をすることで、将来に向けて頭をやわらかくしておくことが必要だと考 えています。
 また、利益についてもこれが誰のものかについて議論し、寄付するほかにも、社 会開発の問題に対して、金融という手段を使ってどんなことができるかを考えても らいました。

【フロア】
 質問と意見が3点あります。1つ目は国債、特に米国債の問題です。金融機関で働いている方で、米国債が本当に戻ってくると思っている方はどのくらいいるのでしょうか。私は到底戻ってくるとは思えません。アメリカの政府関係者でIMFなどに関係している人たちが3本のレポートを書いており、その代表が、ネバダレポートです。財政破綻後の日本をどう処理するかについて書かれており、日本の資産がガタガタになり、日本の株式は買いあさることができるとされています。日本の財政破綻は時間の問題だと思いますが、こういう状況で日本国債を買い、それが米国債に化けるというのはサギに等しい。こういう状況についてどう考えていますか。
 2つ目はペイオフの問題です。金融危機が来たときには、せっかく「エコ貯金」でお金を移しても小さい金融機関はどんなに健全でも破綻しやすく、我々が変えていきたいと思っているメガバンクは国が救済する、という状況が生まれることを危惧します。「エコ貯金ナビ」チームの方々には、そのことを伝える必要があるのではないでしょうか。
 3つ目がNPOへの融資制度の問題です。これは一般の融資とは質が違うと思います。市場原理の拡大に伴い、穴の開いた領域ができてしまいます。社会が成立するためには必ず必要だけれども、行政もその穴を埋めにくい、という領域です。かつては相互扶助で培われていた部分も、戦後崩れていきました。この領域のためにNPOが立ち上がるのですが、市場原理では埋められない以上、もとより充分な利益はあがらないのです。こうしたNPOへの融資は低金利である必要があり、制度を準備しておく必要があります。日本にはNPOへの優遇税制がありませんが、融資制度と同時に他の制度も整備することが重要だと思います。例えば、ドイツの自然エネルギー制度の場合、固定価格での買取制度があるから投融資の回収がきちんと行われるのです。

【司会】
 どなたかお答えいただけますか。

【田貝】
 まず、日本国債の問題は本質的な問題だと思います。日本は毎年、国債の利払い だけで税収の半分以上を使っているからです。今後、金利が上がると言われており、 現在の低金利で税収の半分を使っているわけですから、金利が1〜2%になれば使 える税収はさらに減っていきます。ですから、放っておけば、理論的にはアメリカ が破綻する前に日本は破綻するとの考え方もありえます。この問題は国民1人ひと りが抱えている問題であり、一企業にできることは限られています。
 次にペイオフの話ですね。メガバンクと地方の銀行との役割はもともと違います。 たましんさんは立川を中心に数多くの店舗をお持ちですが、東京三菱は例えば立川 市には1支店しかありません。たましんさんの場合、日常的なチェックができると のことですが、当社の場合3ヶ月に1回程度のチェックしかできない取引先も出て くるわけです。地域に近いほど情報にも経営にも近いため、むしろ地域の金融機関 のほうが不良債権比率は低くなり、メガバンクが国債などの影響でやられる、とい うことも起こり得ると思います。ただし、不動産など本業以外の部分にお金をつぎ こんでいくと、地域金融機関の方が体力がないため、先に倒れるだろう、と思いま す。
 最後にNPOへの融資制度の問題ですが、そもそもNPO法という法律ができたころ から歪みはあるわけです。例えば、アメリカでは、銀行からお金を借りることをオ ルタナティブファイナンスと呼んだりします。そのくらい、起業などをする際には 投資家からの直接金融が一般的であり、融資はつなぎ資金程度だったりします。と ころが、日本は間接金融の比率が非常に高いので、銀行に頼ります。これは、1人 ひとりがリスクをとる文化を持っていないためです。日々、自分の生活のなかで自 分の事業や自分のスキルがいくらで売れるのか、という市場感覚が薄いので制度的 な歪みが出るのは当然だと思います。

【向田】
 NPOの問題も制度の問題ですが、国債の問題も制度の問題につながるでしょう。 預貸率を上げる場合、貸せば貸すほど自己資本比率は下がっていき、4%以下にな れば業務停止命令が下るわけです。これに対して、預消率という言葉が最近生まれ ました。預金に対する国債などの買ったものの割合ですが、これは現在どんどん増 えています。銀行は「融資の需要がないから」と言うかもしれませんが、安易に 「安全なお金」ということで国債などの債券にお金が流れているのではないでしょ うか。私は金融庁の金融検査マニュアルなど、制度にも問題があると思います。
 また、先ほど田貝さんは「私たちがリスクを負っていない」という話をされまし たが、自分たちの住む地域社会を豊かにしたいと考えるならば、まさにリスクをとっ てでも、地域の銀行に自分の預金を移し変えていただきたい、と思います。信用金 庫が破綻した背景には、金融庁などの検査側の問題もあると思います。1県に信組 は1つでいい、というのは検査する側の、簡単に審査するための論理です。もちろ ん、コミュニティバンク側にもディスクロージャーや経営者の選任など色々な問題 がありますが、それだけでなく構造的な問題がやはり存在すると思います。そのこ とを見抜き、「地域金融機関は危ない」と言うだけではなく、お金を預け、そして 「預金をどう使っているのか公開しなさい」「もっとこういったところに融資しな さい」と物申していくことが、金融を変えていくことになるのだと思います。
 NPOへの融資制度の問題についてですが、藤井さんがおっしゃったように、市民 金融と主流金融機関との連携が重要だと考えます。私たちWCBでも、融資するお金 が不足したとき金融機関が貸してくれず、お金を持っていそうなNPO法人を回って 集めたことがありました。ですから、いわば中間支援組織のような存在である NPOバンクにメガバンクが低利で融資する、ということもあっていいと思います。 何十兆円という大きな産業になった消費者金融ですが、メガバンクや地銀はそこに 非常に低利で融資をしています。であればNPOバンクにも低利で融資をすれば、そ れは金融機関のCSRを高めることになると思います。

社会事業への資金循環ついて
【司会】
 それでは後半は、社会問題を解決する事業を支援する資金循環、というテーマで進めていきたいと思います。WCB、三重銀、中央ろうきん、それぞれの取り組みを順にお伺いしていきます。

【向田】
 私の話は、「今までと違ったやり方でお金と付き合おう」、という趣旨の内容で す。私たちは、女性・市民を中心とした銀行を作ろう、という目的で集まった団体 です。私たちは、信用組合を作りたいと考え、これまでも旧大蔵省や金融庁と折衝 してきましたが、現在のように利ざやが少ない中では設立は難しいと判断し、この 活動で集まった出資金を元手に、現在は出資した者同士で助け合う活動をしていま す。
 貸し倒れは全く無く、透明性を高めるため広報誌を年4回発行しています。
 このような活動を始める背景についてお話します。バブルが1990年に弾けて、北 海道拓殖銀行などの金融機関が破綻する中で、自分たちと金融機関との付き合い方 を考えるようになりました。いろんな問題があったのに、見過ごしてきたのではな いかと思ったのです。私は生協の活動をしてきましたが、組合員からたくさんの市 民事業が生まれてくる中で資金が不足する事業も出てきました。そこで、不足する 資金の借り入れを金融機関に申し込んだところことごとく断られ、私募債を募った り生協から借りたりと、苦労して資金調達したことが20件ほどあったのです。それ なら、自分たちで協同組合形式の金融機関を作れないか、と考えて設立準備会を立 ち上げました。
 今までの日本の金融機関の問題は何でしょうか。公的資金の投入、銀行のメガバ ンク化の是非、国の方針と結びついた信用組合の破綻、銀行の消費者金融への低利 融資や参入による多重債務者の増加、などがあります。一方で、世界では「グリー ンバンク」や「ソーシャルバンク」と呼ばれるオルタナティブな金融の流れが起こっ ています。市民事業や環境配慮型の事業に融資をするこうした銀行は、私の知る限 りドイツ、オランダ、ノルウェー、スイス、イタリア、オーストリアなど9カ国に あります。例えばイタリアのバンクの場合、社会性を地域の組合員が審査し、財務 を本社が審査するといった分業も行われています。こうした銀行同士は横のつなが りがとても強いのが特色です。アメリカには1990年代に200行近くのコミュニティ 銀行が生まれ、現在では9,000行以上あります。アメリカは地域を大事にする国で、 自分のお金は地域の中で回す、という意識がとても強い国です。マイクロクレジッ トが約70カ国にあることはみなさんご存知でしょうし、地域通貨も注目される動き です。
 私たちの融資審査委員会には金融機関のプロは一人もいませんが、自身で市民事 業を行ってきた人間が融資審査を行っています。これまで72件を融資して、一回も 貸し倒れがないことが、私たちの自慢です。もしこれからNPOバンクを作りたいと いう人には、資料やノウハウを提供したいと思っています。ぜひみなさんの地域で も、こうしたバンクを作っていただきたいと思います。

【土方】
 三重銀行は、循環者ファンドという地域通貨を活用した資金循環の仕組みづくり に参画し、それを組み合わせてJマネー定期という商品を開発しました。もともと 三重県は北川知事のときNPOの支援に力をいれてきた先進的な県で、NPO活動が比 較的に盛んでした。しかし、資金面では他県と変わらず、融資制度はもちろん、助 成や補助などが不十分でした。また、コミュニティの関係性も希薄化していました。 そこで、こうした問題を解決したいと考え、地域のNPOの方々や三重県職員らと協 力しながら、循環者ファンドの仕組みを作ってきました。
 この仕組みのポイントは、次のようになります。個人や企業から寄付を募り、そ れを三重銀グループも支援しているJファンド事務局が、寄付者の指定したNPO団 体に橋渡しします。その寄付に対する感謝の印として、四日市発の地域通貨Jマネー を発行します。そのJマネーを触媒として、人と人のつながり、地域社会の構成員 の交流を目指すのです。既存のビジネスの中でも、このお金を使えるようになって います。Jマネーを受け入れる企業や商店が70店あり、三重銀も振り込み手数料と して一部受け入れています。こうした企業は、たまったJマネーをボランティア活 動に対する謝礼として支払ったり、役職員に贈呈したりします。こうして、また Jマネーが市民に戻っていきます。
 三重銀はこの地域通貨と、定期預金を組み合わせました。Jマネー定期を10万円 分預金すると、利息に加え三重銀が100万円の寄付をして手に入れたJマネーのう ち、100Jがもらえるのです。この商品は好評を博し、10億円の販売枠を順調に消化 しました。預金者からは「三重銀のお堅いイメージが変わった」といった声もいた だきましたし、NPOからは「Jマネーを通じて、企業との接点を持つことができ、 それ自体がプラスだ」という声を聞きました。この活動を通して、三重銀もNPOと の接点が広がり、経営層にもNPOの融資制度を求める声が届くようになっています。

【山口】
 ろうきんは労働組合や生活協同組合がお金を出し合って作った金融機関です。働 く人たちが相互に助け合うことための、営利を第一の目的としない金融機関です。 ですから、預金は働く人々の生活資金や住宅資金、労働組合の活動資金として融資 されます。労働金庫法で、営利を目的とした事業には融資できないことが定められ ています。
 そんなろうきんがNPOを応援する理由は、一つにはNPOとろうきんの理念に共通 点が多いことがあります。一方、NPOの現場では、ヒト・モノ・カネが不足してい るうえ、新しい存在であるために信用力に乏しい、という悩みがあります。市民活 動が、最大限にその力を発揮するための社会基盤が整っていないのです。
 その現状に対して、金融機関にできることは何かを考え、3つの取り組みを開始 しました。1つ目は、NPOへの助成プログラムを1998年に立ち上げました。そして、 さらに成長し、今度は事業化したいという団体のために2000年に融資制度を開始し ました。これは、NPO法人対象の融資制度としては国内で初めてでした。また、ろ うきんは働く人々が、自分の預金を使って運動を行うという運動性のある金融機関 ですので、さらに、預金者の方に参加していただけるよう寄付型の預金商品を販売 しました。
 融資制度の「NPO事業サポートローン」は、無担保で500万円、担保があれば 5,000万円を融資しますが、ほとんどの団体に無担保で利用いただいています。発 売からの5年間で13のろうきんのうち11に広がり、142件、約9億円の実績があり ます。中央だけなら55件でおよそ3億円です。
 私たちには金融機関としてお手伝いできることとできないことがあります。例え ば地域の介護や職場の問題などに対しては、できることは限られています。そうし た場合、地域に根ざして社会的に有用な活動をしているNPOと協働することで、社 会をより良くすることを金融機関として始めました。社内ではこうした取り組みを グッドマネーという呼び方をしています。
 私の考えるろうきんのCSRは、働く人の預金を生かす福祉金融機関として、また、 労働組合や生協、NPOとともに社会をよりよくする運動体としての両輪で動いてい くことだと思います。わたしたちをとりまく問題は何かを見出し、そしてその問題 を金融機関が持つさまざまな機能を通じて解決するため、人や情報を循環させる役 割を金融機関はもっと担うことができると思います。

【司会】
 WCC、三重銀行、ろうきんの三者から発表いただきました。多摩信も地域向けの事業を行っていらっしゃいますが、関連してお話をいただけないでしょうか。

【長島】
 たましんではNPOへの融資を行っています。支店では最初なかなか対応が難しい という声がありました。そこで各支店に教育をするとともに、本部にNPOにアドバ イスし指南する機関を設けました。そのうえで、また各支店で決裁をするようにし たことで、うまくいくようになったと思います。

【司会】
 それでは、会場から質問はいかがでしょうか。

【フロア】
 未来バンクの理事長をしております田中です。質問ではなく、コメントをします。私は今回の話を聞いて「合成の誤謬」という言葉を思い出します。みんながいいことをやっているはずなのに、結果として世の中は悪くなっている、という問題です。環境も破壊され、戦争も起こり、人々は追い詰められている。どうしてこんなことになってしまうのか、大変疑問に思います。
 私たち未来バンクは、お金を使った市民運動をしています。市民運動が中心で、お金はあくまでツールなのです。それが市民事業や市民融資と呼ばれているのだと思います。合成の誤謬が起こるのは、こうしたさまざまな活動が全体の中ではまだ点の動きでしかないことがあるでしょう。また、ここにいらっしゃる方々も含め、未来の結果に対して責任を取る、という姿勢がまだ十分ではないのではないか、と思います。環境破壊をしている事業に融資をしてしまっている、戦争に使われる資金を提供してしまっている、という現状がある中で、どのように責任をとっていくのかが問われていくのではないでしょうか。
 この問題については、第一義的にはやはり預金者に責任があるのだと思います。田貝さんがおっしゃったように、預金者が変わらなければ金融機関も変われない、ということがあると思います。これまで、市民側の声の上げ方が足りない、そして企業が市民の声を聞かない、という状況がありました。どちらかが歩み寄らないと、この「合成の誤謬」は解決しないでしょう。そして、いい思いを形にしていくために、お金は非常にいいツールなので、これからもお金の流れを変える動きを伸ばしていきたいと感じています。

【司会】
 まさに、本日のテーマ「預金者が選び、参加し、創る銀行」のように、預金者が変わらなければいけない、というメッセージいただいたと思います。ありがとうございます。

預金者へのメッセージ
【司会】
 それでは、最後にパネリストのみなさまから、預金者へのメッセージを一言ずつお願いします。

【長島】
 信用金庫として、ではなく「地域の金融機関、企業」として今後も歩んでいきた いと思います。地域の中で皆さんに認めていただけるようにがんばっていきます。

【田貝】
 メガバンクはこれまでつぶれない、信用、ブランド、ということでしか見られて きませんでしたが、今やつぶれない銀行だからといって選ぶ時代ではなくなってき たと思います。メガバンクならではの全国区・グローバルでの特色を出し、それに よって選んでいただける銀行でありたいと思います。

【向田】
 GLSコミュニティ銀行のスローガンに代えたいと思います。今までと違ったやり 方でお金と付き合おう。つまり気づいたら行動しよう、ということです。さあ、預 金を移し変えましょう。

【土方】
 Jマネー定期を発売したことで、この趣旨に賛同して買ってくれる人が確かにい らっしゃいました。今後もこうした商品を発売することでお客さんとコミュニケー ションをとっていきたいです。

【山口】
 お金は社会を変えていくための道具だと思います。金融機関も預金者も、その社 会を変えていく担い手であり、監視役だと思います。信頼と共感に基づく、いいお 金の流れを作っていきたいと思っています。

【田辺】
 国が破綻や経済縮小したときに、地域の人々が地域のお金を事業継続が可能な金 利で貸すノウハウを蓄積することが重要だと思います。

【司会】
 最後に基調講演をいただいた藤井さんにも一言いただきたいと思います。

【藤井】
 本日の席順はメガバンクからNPOバンクの方まで横一列に並んでいますが、これ は大変象徴的です。従来はピラミッドでしたが、これからの金融はこうなるでしょ う。どの金融機関も預金者に向き合うという意味では共通しているからです。その とき大事なことは、信頼されるかどうかです。信頼は大きいから生まれるのではな く、コミュニケーションによって生まれるのです。どうやって価値を伝えていくか が金融機関の原動力につながり、伝えることのできた金融機関を、この会場の方々 は選ぶのでしょう。
 そうした預金者が増えていくことで、日本の経済や社会がよりよい方向に向かっ ていくことを期待しています。

【司会】
 金融機関のCSRはこれまでは遅れていたかもしれませんが、こうした対話の場を持つことの重要性に気づいて、これからも注目していただければと思います。
 これにてパネル・ディスカッションを終わりたいと思います。ありがとうございました。

フィナーレ
A SEED JAPAN 
鈴木 亮
 第二回エコ貯金フォーラムに最後までご参加いただき、まことにありがとうございます。
エコ貯金プロジェクト責任者の鈴木亮と申します。フォーラムのフィナーレといたしまして、現在、A SEED JAPANが行っています。「口座を変えれば世界が変わるキャンペーン」のアクションアピールをさせていただきたいと思います。

 私たちがエコ貯金を広める理由は、ひとつは、このかけがえのない地球を守りたいからです。何気なく飲む水や、呼吸する空気、食べる食事、すべては自然からの恩恵であり、未来の地球と自分たちのために、それを守って残してゆきたいからです。

 もうひとつの理由は、私たちが持つ「お金」というものについて、しっかりと自分の目で、お金の行方を選択すべきだと考えるからです。私たちはまだまだ金融というものに対して、人任せだったり、無関心だと思います。

 地球を守りたいと思うこと、つまり環境意識と、自分のお金をしっかり考えること、つまり金融意識と、その両方を兼ねそろえた人の貯金スタイルとしてのエコ貯金を、一人でも多くの人に呼びかけてゆくことを目指して、エコ貯金プロジェクトは始まりました。

 そして多くの方々、金融機関、NPOバンク、メディア、NGOなどの方々にご支援いただき、このフォーラムを開催することが出来ました。

 今年のアースデイ、地球を考える日には、エコ貯金を広く市民に呼びかけ、金融機関に対して提言する「3億円のエコ貯金アクション」を行います。

 これは「私は銀行を選びます」という宣言メッセージと、自分が選んだ金融機関と金額を3億円分集めて、その声を金融機関に届けるものです。現在までに3000万円分の宣言が集まっています。ぜひ、エコ貯金フォーラムを通して「銀行を選ぼう」と思われた方は、アクションにご参加いただきたいと思います。

金融機関が社会的責任を果たす社会、市民が高い環境意識と金融意識を持つ社会の実現に向けて、これからもA SEED JAPANに、ご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。




↑ページトップへ

Copyright (C) 2005 A SEED JAPAN. All Rights Reserved.