◆公開質問状に対するADBの返答

Asian Development Bank
Regional and Sustainable Development Department
2003年2月14日

国際青年環境NGO
A SEED JAPAN
代表
田辺有輝殿

アジア開発銀行
地域協力・持続的開発局長
ヤン・ヴァンヘズウィック

貴殿がアジア開発銀行総裁千野忠男に宛てた2003年1月25日付の書簡に関して、小職が総裁に代わってご返答申し上げるよう指示を受けましたので、以下ご回答申し上げます。

まず、水資源セクターにおけるアジア開発銀行(以下、ADB)の加盟途上国支援に対して、貴NGOが関心を持たれていることについて、謝意を表明致します。ADBは、重要な水資源セクターに関してNGOとの定期的対話を重視しており、その一環として、第三回世界水フォーラムの開催期間中に、ADBとNGOとの対話集会を持つ準備を進めている次第です。同フォーラムは京都で開催されますが、対話集会の具体的場所については今後、決定される予定です。日時は、今のところ、3月17日を予定しております。

この対話集会において、貴殿が千野総裁宛て書簡の中で提起された問題に関して、論議を深めることができると考えておりますが、それに先だって、以下の通り、我々の見解をお知らせしたいと存じます。

貴殿の書簡の中には、ADBの水政策"Water for All"への言及がありませんでしたが、ADBではこの水政策を2001年に承認し、ADBの水資源セクター政策のガイドラインとしております。ご希望であれば、同政策のコピーをお送りすることもできますし、ADBのホームページ「www.adb.org/water」からダウンロードしていただくことも可能です。

貴殿は書簡の冒頭で、水に関わるサービスの民営化について言及しておられます。ADBの水政策を見て頂ければ、ADBが、貧困層および十分な水供給を受けていない人々に水資源への公平なアクセスを保障するため、自立的かつ説明責任能力を備えた水サービス供給事業体、民間セクターの参加、公共セクターと民間セクターのパートナーシップを支持・支援していることをご理解頂けるものと考えております。また、ADBの水政策は、水に関わるサービスの民営化については論じていないこともお分かり頂けるものと考えております。以下で、貴殿のご質問それぞれに対して、具体的に回答致します。

(質問1)
1981年、チリは国の政策として水利権の制度を導入しましたが、その政策は貧しい農民にとって負担が増大するものであると多くのNGOが指摘しています。ADBはスリランカに対しても水利権制度の導入を含む国家水政策を要請していますが、多くのNGOはこの政策がチリの二の舞になるのではないかと懸念しています。総裁は水道サービスの民営化が貧困層への負担を増大させる可能性についてどのようにお考えでしょうか。

(回答)
スリランカに関して、ADBは、スリランカ政府が基本的な水政策と、関連する制度改革を形成するための技術支援を行いました。スリランカ政府の基本的水政策は現在、公聴会のプロセスを通じて、詰めの段階にあります。また、スリランカ政府は、最新の状況に即した水資源関連法の確立途上にあります。スリランカ政府は、貧困層の負担を増大するのではなく、むしろ、水資源への権利を管理する行政措置を通じて、大規模な水資源利用を規制することで、貧困層の水利権を保護しようとしている、とADBでは理解しております。ADBは、スリランカ政府がすすめている、水資源管理の行政システムの確立を目指した法的ならびに行政的プロセスには関与しておりません。しかしながら、これらのプロセスは、貴殿が質問の中で指摘された「民営化」に関連するものとは思われません。

(質問2)
ADBは市場メカニズムにおける競争を通して、より良い水道サービスが提供できると提唱しています。しかし、実際はビベンディ社とスエズ社の2社によって150カ国2億人以上もの人々へサービスが提供されており、PSIRUのDavid Hallは、これらの2社によって市場は超寡占状態であると指摘しています。この事例からも、市場メカニズムにおける競争が機能していないことは明らかです。総裁は、このような市場独占の中で、より良い水道サービスが提供できるとお考えでしょうか。

(回答)
スエズ社とビベンディ社は、民間セクターによる上下水道供給および下水管理分野で主要な事業体ではありますが、これら2社で市場シェアの3分の1を占めているのみで、残る約3分の2のシェアは、RWE、アングリアン・ウォーター、セベーントレント、ユナイテッド・ユティリティーズなどを含む他の事業体によって占められております。市場競争をする潜在的可能性は、現状では、比較的限定されておりますが、国際的企業ならびに開発途上国の企業の双方が参加する市場競争は可能であり、かつ、望ましい、と認識されてきました。市場競争は、競争入札で実現可能であり、水に関わるサービスの場合は、応札する事業体の数を増やすことで競争を促進することが主眼となります。フィリピンのマニラ首都圏の水供給サービスの事業請負では、いくつかのコンソーシアムが応札にあたる資格審査にパスし、事業請負契約は4つのコンソーシアムから提出された価格審査に基づいて決定されました。中国の成都上水道供給プロジェクトでは、ビベンディ社が国際競争入札の結果BOT契約を獲得しました。

(質問3)
ADBは貧困削減のために水道サービスの民営化を提唱しています。しかし、ビベンディ社は2001年1月、グループの総債務(165億ユーロに相当)を水、エネルギー、廃棄物、輸送業務(同社のいわゆる環境部門)に負担させました。このように、途上国における水道サービスで発生した利潤が先進国へ流失していることは明らかです。総裁はこのような資本流出が、本当に貧困削減に繋がるとお考えでしょうか。

(回答)
ビベンディ社の財務戦略・運営は、同社内部の企業決定であり、ADBとしてはその詳細について承知しておりません。ただし、2002年前半に関するビベンディ社の公表資料によると、欧州と、北米および中南米における収益が、ビベンディ社全体の収益の94%を占めており、アジアを含む他地域における事業は、収益全体の6%を生み出しているにすぎないようです。ビベンディ社の財務戦略・運営がどのようなものであれ、企業内での収益配分が必ずしも、ADBの加盟途上国の資本流出を意味するものではないと考えます。

(質問4)
世界各地で民主的な公共事業体による水道管理が行われています。例えばブラジルのリオグランデドスル州の州都ポルトアレグレでは、民主的な方法によって公共事業体による水道管理が行われ、ブラジルで一番高い99%の水供給率を誇っています。総裁はこのような民主的な公共事業体による水道管理を、ADBが支援する可能性についてどのようにお考えでしょうか。

(回答)
先に小職が言及したように、ADBは自立的かつ責任能力を備えた水サービス供給事業体を支援しており、多くの場合、民間セクターの参加と、公共セクターと民間セクターのパートナーシップの機会があると考えております。ADBの民間セクター参加への支援は、国際的水サービス事業体に限定されてはおりません。ADBは、水に関わるサービスを成功裏に行ってきた国家および地方レベルのサービス供給事業体の業績に関する研究調査を進めているところです。ADBは同じに、全面的な消費者保護を行う一方、投資家とサービス供給事業体が活動するうえで必要なビジネス環境や条件を確保する方法として、強力な監督枠組の確立と効果的な監督・規制措置の実施を提唱しています。ADBは、インドネシアやスリランカなど加盟途上国に対して、監督・規制機関の確立・強化と、信頼性が高く、独立かつ自主的で説明能力があり、さらに、透明性が確立した水に関わるサービス監督・規制制度の促進を目的にした技術支援を行っております。これらのプロジェクトは、上下水道セクターのガバナンスを促進し、地方自治体と民間セクター双方の参加を促進する環境を創出することも目的としています。

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