(1)ボランティアコーディネート術

A SEED JAPANの活動

1.はじめに

あるコンサートに参加したA SEED JAPANのメンバー数人が、場内に散乱する大量のごみを目の当たりにし、「なんとかしたい」という動機から始まったのが、2004年で11年目を迎える、野外イベントの環境対策活動だ。これは、ボランティア関係団体を対象に、環境に負担をかけないイベントのボランティアコーディネートはどのように作られるのか、何を大切にしてボランティアのコーディネートを行っているのかを、私たちの経験を元にまとめ上げたものである。そしてボランティアコーディネートの紹介のみならず、ボランティア、来場者など、様々な視点からこの活動について感じることを率直に語ってもらった。

私たちは、大量生産・大量消費・大量廃棄を推進するイベントではなく、より多面的でオルタナティブな視点を大切に様々なイベントの環境対策、企画制作、運営やコーディネートを行ってきた。そして環境 NGO としての独立した立場から、主催者と対等な関係での共働制作を、第一のポリシーとしている。 イベント会場での環境対策は、会場で廃棄されるごみの削減やリサイクルを「参加型」で実践するものである。来場者やスタッフの代わりに「ごみ清掃」を行うのではなく、イベントに関わる全ての人々の間の、環境保全へ向けた協力体制をコーディネートすることが私たちの目的である。今後も、私たちは若者の行動力や主体性を引き出す「自分のことは、自分でできる」キャンペーンを実施することで地球に優しく、人に優しいイベントの創造に挑戦しようと思う。また、分別やリサイクルを非日常というイベント会場で行うだけでなく、来場者が日常に戻った時にも、環境に配慮したライフスタイルを実践することができるきっかけを、様々な方法で提示していきたい。 私たち人間の生活様式や消費形態を改めて問い直すとき、ごみというたった一つのテーマが、どれだけ多くの問題を浮かび上がらせてくれるのかということを、主催者や来場者と共にこれからも考えていけたらと願っている。

2.環境対策活動の紹介

日本に多くの野外イベントがある以上、その数の分、環境負荷はかかります。その対策を、清掃業者ではなくて、独立したNGOが担うことに意味がある。それが私達の主張であり、過去8年間の活動の中で、野外音楽コンサートを中心に大小合わせて50回以上に及ぶイベントで環境対策を行ってきた。主催企業との対等なパートナーシップを構築し、そのイベントをクリーンに、そしてすべての人が参加者足り得る仕組みを10人~300人のボランティアと共に創造するのである。

6年前から協力関係を結び、日本最大の来場者規模を誇り世界一美しいと謳われる「フジロックフェスティバル」(主催:(株)スマッシュ・以下FRF)を例に挙げれば、150万平方メートルの会場に、5つのステージに6つのエリアがあり、音楽があり、食事があり、排泄物の処理があり、寝る場所があり、開催期間の3日間で10万人が訪れる、縮小された一つの社会ができるといっていい。その中で、当然発生するごみの問題は、来場者自らが取り組み、そして、主催者も、飲食屋台の出店者も、同じ町に暮らす者として一人一人が取り組んでいくべき当然のことであって、清掃業者だけに任せられるものではない。「自分のことは自分でできる」。つまり、イベントに関わるすべての人間がごみを考え、減らす努力をする手助けをしていくこと。それが私たちの活動である。

具体的に、私たちが行っていることは、ボランティアを数百人コーディネートし、イベント会場内に設置したごみ箱で、来場者にごみの分別を促し、そこで回収した資源ごみの7割はリサイクルをするものである。加えて、来場者参加型キャンペーンと題し、楽しみながらリサイクルに参加できるシステムを実現し、又、回収したペットボトルでリサイクルアートを創る。

音楽を楽しみながら活動を行うボランティアの存在。ボランティアはその多くが、音楽が好きな若者である。どのようなきっかけを持つにしろ、自主性を持って活動に参加したボランティアの存在が、同年代の若者を惹き付け、そして先頭に立って来場者の意識を動かして行く。 野外コンサートの主な来場者が、十代、二十代の若者であることを考えれば、彼等が自主性を持ってこれからの社会に参加していくことは不可欠だと言える。私たちは「参加型」という言葉を多用する。非日常空間である野外のイベントでは、来場者が主役になり、その為に彼、彼女たちがごみのことを自ら考えられる仕掛けに参加することで、自分たち一人ひとりが社会を創っていく市民だと認識できるに至るのである。 音楽のこと一つ取ったら提供する側と提供される側。だけど、ごみを考えるのは、みんな同じ。そのスタンスによって、イベント主催者と来場者との有機的な繋がりを生み出し、平和的な空間に会場を維持することを可能にしている。 野外イベントでの活動を通して私たちが伝えていくこと。それは、無限の可能性を秘めた未来の社会の参加者に、考え、実行に移すきっかけを与えていくことなのである。

 

3.著者の紹介

羽仁カンタ A SEED JAPAN:理事
東京ボランティア・市民活動センター:運営委員
1964年東京都生まれ 東京都渋谷区在住

全米学生環境行動連合の派遣で1991年9月留学先の米国より帰国。地球サミットへ向けた国際青年協力キャンペーンの日本窓口としてA SEED JAPANを設立し、代表を務めた後、現在は理事として青年の活動をバックアップ。国内での青年環境活動の活性化を目的に様々な企画を行い、94年度には全国青年環境連盟の設立に貢献する。

96年~98年度まで市民活動のサポートを行う民間非営利団体「POWER~市民へ力を~」を設立し代表を務める。POWERでは、草の根で活動するNPOを対象に活動のノウハウを中心にしたトレーニングなどを行う。

96年~98年度まで環境庁が設立した環境パートナーシップオフィスのNGO側の職員としてとしてNPOサポートを担当した。98年より日本外国語専門学校の国際ボランティア学科の講師として「NGOの経営管理」「地球環境概論」の授業を持つ。

94年よりレゲエジャパンスプラッシュ、Rainbow2000、Fuji Rock Festivalなどの大規模野外フェスティバルにて、ボランティアを組織し、ごみの削減、リサイクルなどの環境対策事業を開始した。野外イベント界を環境に配慮した形にしていく活動の草分け的存在で、99年度から飲食容器の使い回しを行う「Dish Re-use Project」を開始した。日本各地で「ごみゼロイベントへの挑戦」と題した講演会を開催している。主な著書に「NGO運営の基礎知識」アルク出版がある。

 

4.関係者へのインタビュー

観客インタビュー

~観客の人たちには、私たちのボランティア活動はどう映るのだろう? Fuji Rock Festival'99(以下FRF)の会場で聞いてみた~

これから毎日分別するからね!! もう街でたばこ吸わないよ!! 僕たちもちゃんと携帯灰皿持ってるからね。レイバーの基本でしょ。落ちてるごみとか拾っちゃうしね。また来年もここ使えるように僕らも気をつけるんで、頑張りましょうよ、お互い。フェスティバルがあるのは、今のところアシードのおかげだからね。(FRF会場内ステージ「Field of Heaven」にて)

いま分別の種類が、めちゃめちゃあるじゃないですか。もっとちゃんとしなくちゃなって思うんですけど、普段はあまり分別してないですね。どれが燃えてどれが燃えないのかって分かりづらいですよ。だからボランティアがいてくれた方が助かりますね。でも今日、あれは持っておきたいなと思った、携帯灰皿。この間買おうと思って、高かったからやめたんですよ。でもここ来たら結構みんな持ってるじゃないですか。この前スマッシュ(主催企業)のホームページ見てたら、ごみは自分で片付けましょうってがんがん書いてあって、ほんとにやってるのかなって思ってたんだけど、ここまでちゃんとやってるとは実際思ってなかった。(ごみ箱前にて)

ボランティアの人達は、多分堅苦しいこと考えずに、ただみんなで一緒にやるって言うことに対しての達成感とかもあるだろうし、友達も出来たりして楽しいと思うんですよ。だから僕も興味があるし、やれればやってみたいと思ってるし。(FRF会場内Green Stageにて)

自分は「ボランティア」って言う言葉は好きじゃないんですよ。なんかこう、自分の気持ちからやりたいとか、そう言うのが好きなんで…。ボランティアしてるんだっていう、そういうのは好きじゃないなって。(FRF会場内Green Stageにて)

 

ボランティア・インタビュー

~高校生、大学生、そして社会人も参加したFuji Rock Festival'99のボランティア。それぞれが感じた自分のボランティア体験を話してもらった~

お客さんのマナーがすごく良くて、驚いてます。朝になって会場の清掃をしたんですが、全部のごみが、ごみ箱の場所に固められていて、みんな協力的だなぁと思いました。今日も朝から、足でペットボトルをつぶしてるんですね。そうすることによって半分くらいの容量になるんですけど、それを若い16、17才くらいの男の子達がおもしろがって、一緒になって潰してくれたりして、みんなで楽しくリサイクルしています。すごくいい感じだと思います。(男性 37才 アースデイ2000呼びかけ人)

最初は「ボランティア」って堅苦しいイメージあったんですけど、やってみると、結構仲間も多いんで、学校の修学旅行に行っているような感じです。「ボランティア精神」って言うのはよく分からないんですけど、楽しくやれて、しかもいいことができてると思うと、なんか楽しいなって思えてくる感じです。(男性 高校生)

はじめは音楽を聴こうと思ってきました。でもボランティアをやってみて、塵も積もれば山となるというか…。僕らがやって、周りのお客さんもそれを見て分別してくれたら嬉しいし、そういうの見ているの好きですし、やって良かったと思っています。ご苦労さんとか言われると、すごく嬉しいですよ。(男性 16才 高校生)

友達に誘われて、軽いノリで来ました。説明会ではきついぞって脅されてたんですけど、実際はそこまでキツくはないんで…。(お客さんは分別を家で)実際はやらないと思いますけど、少しずつでもね、変えて行けたらなとおもって自分もやってます。見たいアーティストは見てないですけど、楽しいです。(男性 19才 高専)

ボランティアには、ホスピタリティーとか、相手を思いやる心の要素が不可欠だと思います。たとえば私たちが予定通りのボランティアを集めて、広い会場で計画通りのマニュアルに従って、円滑に進行したとしても、ボランティアやスタッフ同士の相互の心のふれあい、通い合いがなければ「盛り上がり」に欠けることになって、真の意味でイベントが成功したとは言えないと思うんですよね。(男性 1996~2000 ボランティアコーディネーター)