【イベントレポート】復興電源という前に考えることがあるんじゃないか?〜福島の石炭・再エネ・ESG投資〜結イレブンvol.38

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★イベントの開催内容はこちら→ http://www.aseed.org/2017/01/5145/

★登壇者資料&動画はこちら→ https://www.facebook.com/events/1899568850272868/

(転載等にあたりましては必ずご一報ください。)

当日は40名の方にお越しいただきました。

講師の方々の資料をアップいたしました。ご使用になる場合は必ずA SEED JAPAN事務局(info@aseed.org)までご一報くださいますようお願いいたします。

開催レポート


38回目の結イレブン。今回の場所は新宿駅から徒歩5分の会場「CROSS COOP」。ここに40名が集まりました。

世間では東京オリンピックの話をよく耳にします。その中で、一時期「復興五輪」「復興電源」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。

今回は、地域の取り組みから学び、世界の金融動向を知ったうえで、日本のあるべきエネルギー政策、地域の未来を担う人たちとの協力、そして投融資を通じてお金の流れを変えること意義について話し合いました!

第一部:復興電源とは言うけれど・現場からの報告

鈴木亮(A SEED JAPAN)

福島県内に、「福島復興本社」という支部があります、そこが復興電源PJを立ち上げていて、勿来と広野町に540MWの石炭火力発電所(IGCC)を計画しています。それを2020年ごろから稼働させて40年間発電する計画です。わかりやすく言えば、オリンピックの時には原発に代わるエネルギーで復興していますよと見せるのでしょうが、でもそれが石炭であり、東京電力や常磐電力などがコンソーシアムを組んで進めています。800億円建設時から稼働時まで。2基で1600億円。

復興の中ではエネルギーが柱になっています。いわきではイノベーション構想があり、どんどん研究・実証していくことを進めているが、とてもスピードが速い。それを今日のような機会に少し議論していきたいと。

いわきにはIGCC実証炉(540MW)2基をつくる計画があり、相馬には旧式の1000MWを作る予定。112MWが小規模火力として3基建設予定。合計で2400MWになる。そして小名浜には石炭が届きます。

最近では、オリンピックに向けた電力需要を賄うために福島の地域で発電した電気を東京に持ってこようという構想があります。水素エネルギーの拠点を福島に作ろうとしています。それをいわゆる「復興電源」の使い道です。

(参考:福島新エネ社会構想

一方で福島県は、「2040年までに再生可能エネルギー自給率100%を目指す」という宣言をしました。日本の状況に目を向けると、2030年で原発をまだ20~22%にする計画。震災以降原発が停まった分、それを埋めるのが石炭火力発電でした。いつまでベースロードという概念を続けるのかも論点です。

しかし世界の流れは違います。ブルームバーグニューエナジーファイナンスの試算比較を見てみると、いかに化石燃料ではなく脱化石を世界が目指しているかがわかります。それは、環境・社会・ガバナンスを考慮して投資をする「ESG投資」の潮流とも相まって、脱化石、再エネへの投融資がメジャーになってきています。

第二部:有識者による情報提供・問題提起

歌川学氏(産業技術総合研究所)

昨年パリ協定が発効し、その目標を達成するためには今世紀後半でCO2排出量を実質ゼロにしなければなりません。世界の化石燃料の採算ベースの埋蔵量の8割を、使ってはいけないことになったのです。

先進国の石炭火力は割合を減らしています。また、デンマークが9割から2割。イギリスが7割から2割など劇的に減らしている国もあります。

日本の再生可能エネルギーも、統計で見ると水力8%、水力以外で16%までになっています。九州電力のデータでは、5月の需要が少ない時期には太陽光や水力も含めると電力の半分ほどが再エネで賄えるようになっています。

▼それでも石炭火力発電所を作る日本

しかしながら日本では石炭火力の供給計画が50基近くもあります。福島では大きなもので3基。東京電力・東北電力などの大きな石炭火力発電所がすでに沢山あり、火力発電所のCO2排出量は福島県内排出量の約2.5倍となっています。

これからも全国で火力発電所を1.5倍に増やす計画になっており、石炭火力の発電が増え続けると日本全体のCO2排出量を押し上げてしまう。

日本の温室効果ガスの目標は90年比だと2030年18%。一方燃料構成については、石炭が26%、原子力が20%となっています。

省エネを徹底的に進めて、再エネをそれなりに進めていくと各エネルギーで2050年には半減するところまで達成できると考えられます。既存技術だけで新技術を見込まずに進められる可能性があります。

政府の地球温暖化計画の目標では、90年比だと13%削減で省エネは控えめ。再エネでも政府計画は控えめな数値目標をとっているといえます。逆に石炭に関しては色々な研究がある中で、高めの数値目標を想定していると考えられます。

最後は原発についてですが、「原発は大きな削減が可能」としている研究では原発を全く使っていないかほとんど使っていない想定結果が出せています。政府計画の中では、こういうレンジの中では原発の割合は高めになっています。

省エネや再エネを進めて、石炭を減らすとコストが大変ではないかと懸念があります。ところが2016年10月の経済産業省総合自然エネルギー調査会のデータでみると、石炭とLNG火力は新設だとトータルコストではすでに逆転しており、LNGの方が安くなっています。昔は石炭よりLNGが3倍ほど高かったけれど、価格が下がっています。

2030年の予測になると再エネの価格が下がってきて、ほぼ並ぶかむしろ安くなってくる。アメリカのようにすでに逆転しているようなところもあります。

▼地域の発展に寄与するエネルギーとは

再エネ・省エネは地域でおカネがまわりますが、化石燃料は海外に利潤が流出してしまう。

福島県で毎年光熱費約7700億円がほぼ県外に流れています。これを再エネ・省エネで取り戻してこれが地場産業に流れれば、非常に大きな地域産業振興になると思います。こういうことが現実的に可能になると思いますし、こうした戦略を、エネルギーを切り口に考えていければと良いと思います。

再エネは日本でも大きな産業に発展しており、40万人近くの雇用を生み出し自動車産業の半分程の大きなものになっています。エネルギーを沢山使う産業よりも大きな産業になっているのです。

発展する産業というものは大手産業が担う道もあれば、地元が担う道もある。なのでぜひ地元が担うような道で、地場産業の振興になって地域の発展と一体になるような再エネの普及の仕方ができれば良いのではないかと思います。

Q:石炭コストが現時点でLNGより高いとあったが、なぜ石炭に投資されるのか?

A:一つ目はこの数か月でLNGの価格が一気に下がり石炭との差が縮まったので、最新版のアップデートがまだされていないため。二つ目は、将来はまたLNGが上がってしまい逆転されてしまうのではないかという懸念。三つ目はこれから送電網への受け入れ順位が決まっていく時に、燃料価格の安い順に受け入れるルール(メリットオーダー)が日本でも導入されていくのではないかという点です。現在は原発が最優先にされていますが、そうではなくEUなどで導入されているメリットオーダーが採用された場合に、石炭の方が安いのではないかという思い込みがあると思います。アメリカのように石炭=安いが逆転する可能性もあります。

近藤恵氏(ふくしま自然エネルギー基金/飯舘電力)

飯舘電力は2014年9月29日に発足、村民46名で出資して設立した「ご当地電力」会社です。福島市内のほとんどが大企業か、資本家といわれるお金を持った人たちが行っている再エネがほとんどの中で、飯舘電力は地元の人が所有して地域経済を回しています。

「最初はメガソーラーを計画しましたが、ちょうど設立した時期に、東北電力の高圧買い取り保留があり、太陽光はいっぱいですから申し込みをストップせざるをえなくなってしまいました。しかしそれではやめるのは悔しいため、小規模(300坪くらいまで)分散型の計画に変更しました。」

設置数は2017年1月31日現在で13か所。3月末まで19か所、さらに来年3月末までに50か所の合計3MW(450世帯分)を予定しています。

飯舘電力の特徴は太陽光パネルの下で農業を続けるという「ソーラーシェアリング」。これで、農地法の壁を克服したといいます。

「小規模発電事業は、農地法の壁がありました。農地は他の方法に使用してはいけないというものです。被災地特例と言って、市町村が許可をすることで農地でもソーラーを設置することが出来るのですが、そのほとんどが大企業で、中小企業である我々が認められるのは難しかった。被災地であっても全国一律の法律があるためです。

これはパネルの高さが2メートル以上になっているため、大きなコンバインでも作業することが出来ます。」

 

その後近藤さんはシェーナウ電力から賞金をいただき、それを元手に福島の自立支援を目的に「ふくしま自然エネルギー基金」を設立しました。また、世界ご当地エネルギー会議を開催、福島宣言を採択しました。

それでも県内には色々なエネルギー事業がありますが、多くは大企業や東京資本だといいます。例えば福島市上水道発電は東京電力100%出資であり、東京の電気を発電しています。他にも、「地元で一本でも風車を立てさせてほしい」といったものの、金融機関の信頼を得る事が難しいなどの理由で、売電先も大企業にせざるを得なかったといいます。

「脱原発や再エネ普及がしても私たちが豊かにならなければ意味がないため、私たちも頑張っていきたいです。」

 

竹村英明氏(市民電力連絡会 会長)

 

「福島のメガソーラーは合計で100MWを超える数があります。福島が東京を中心とした大企業のターゲットにされているのです。ドイツでは制度で禁止されていますが。」

沢の流れを止めるなど、地域の事を考えていないような計画もあり、日本でのルール化も検討していく必要があるといいます。

竹村さんは今年から新会社を立ち上げ、地域の再エネ普及に貢献しています。その会社名は「グリーンピープルズパワー」。小売り事業も始めています。

「ソーラーシェアリングは例えば有機の農作物を作り、レストランに出荷することができます。実際に大豆、ネギ、ラッカセイなどを作って販売しているところがあります。農業収入も得られるし売電収入も得られます。」

 

「東京電力のような大きな電力会社を創ろうとは思っていません。それよりは同様の団体が日本中に設立されてネットワークを形成するべきだと思います。

今後どれだけ市場が動くかを見てみましょう。日本の電力消費量:8000億kWhその1%(運動に関わっている人たちと仮定して)が電気をスイッチすると80億kWh(約230万世帯分)です。これは販売量1億kWhの会社が80社もできるということになります、30円/kWhなら毎年30億円も収入を上げられます。粗利10%なら3億円。毎年投資したら、80社で240億円/年、再生可能エネルギーに投資することが出来ます。私たちの力で再生可能エネルギーを進める仕組みができます。」

 

第三部:参加者全員によるフロアディスカッション

 

金井司氏(三井住友信託銀行経営企画部 理事・CSR担当部長)

金融機関の立場から、ESG投資市場の現状についてお話しいただきました。

「安倍内閣の資本市場改革とガバナンス改革がはじまりましたが、こんな改革が起きるなんて信じられませんでした。金融庁はスチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードを作り、多くの金融機関が署名をしています。経産省・金融庁主導で猛烈なスピード感で改革しています。」

首相が議長となっている「未来投資会議」では下記のような文言も掲載されたとか。

「投資家・株主の建設的な対話の促進を通じて、短期主義的な視点に捉われずに果敢にリスクテイクを行い、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図っていくことが求められる」

 

「この会議で「ESG」という言葉が出てきていていることにとても驚いています。なかなか変わらない企業に対して政府がメスを入れているという状況です。」

 

ESGは、元をたどればSRI(社会的責任投資)が原点にあるそうです。所詮投資の世界であると思われていた中に新たな概念が加わりました。もともとスチュワートシップコードやコーポレートガバナンスコードでは、経営や投資において「長期の視点に立つこと」が基本になっており、それがESG投資の概念に収斂していったということが起こっているようです。

 

そのような流れの中で、120兆円を運用するGPIF(日本の公的年金を管理・運用する機関)が、PRIに署名しました。さらに企業年金を管理運用する企業年金連合会も署名したのです。

「これはもう驚きです。投資家がなぜESGに注目するのかというと、長い目で見ると環境がダメになると経済もダメになるということが改めて分かったからです。

そのような中、ノルウェー政府基金は、「日本の電力会社は石炭火力の割合が大きすぎて投資に値しない」としています。」

金融安定理事会の会長が気候変動に関するレポート(去年の12月)を出しましたが、そこでは、移行リスク(低炭素社会への移行の際に資産が“座礁”する―つまり回収不可能になる恐れ)があるという新しい考えが提示されています。

 

参考:「日本における座礁資産と石炭火力:環境関連リスク・エクスポージャーの分析」

 

Q:再エネ融資がまだまだだがどう促進できるでしょうか?

A:地域金融機関も投資できる仕組みを作ることが重要だと思います。

Q:世界の流れが日本の金融機関に与える影響はありますか?

A:銀行への投資家の5割が海外なので、その声は無視できません。

再生可能エネルギー事業に係る参加者・登壇者からは、「企業は前のめりだが行政や金融機関が億劫になっている。ただ地域の信用金庫も「向こうがやれば自分たちもやる」という姿勢なのではないでしょうか。」という意見や、「信金や地銀は声をかけてもハードルが高いからなかなか来ない。ESG投資はメガソーラーなど地域ではない団体に流れているのではないか」といった意見もあがりました。

 

森摂氏(オルタナ代表取締役社長 兼 編集長)

オルタナ編集長の森氏からは、エネルギーに係る世界の最新動向をお話しいただきました。

「台湾は2025年までに原発停止、ハワイは2045年までに自然エネ100%を目指しています。自然エネは島から始まるから、日本も該当するかもしれませんね。一方、サウジアラビアは2040年までに石油放棄の用意があり、アメリカ資本の化石燃料ダイベストメント(ロックフェラー家がエクソン株式売却)が始まっています。」

企業の持続可能社会に向けた原動力については、国際ルールのルートと、ミレニアル世代のルートの二つがあるといいます。

「国連(PRI、SDGs)のルールと市場が影響を与えあい、ESG投資、スチュワードシップコードなどが運用されるようになりました。それから「ミレニアル世代」のルート。ミレニアル世代とは物欲、出世欲なく、社会的な関心が高い世代です。」

 

「最近RE100というアライアンスができました。国連の仕組みの一つです。GoogleやYahooなど大きな会社が将来的に再生可能エネルギー100%にするという宣言をしている中、日本の会社はひとつもありません。今後はRE普及ジャパンを目指す。市民からの意見は、その際にとても大切になってきます。」

その後、会場全体でディスカッションを行いました。産官学+金融の連携の必要性なども話題に上がりました。

金井さん・森さんのお話を聞いて、世界の金融機関が石炭火力発電からの投資を撤退しているということが改めて明確に分かりました。そのなかで、日本の金融機関におけるESG投資の基準の中にも、環境や持続可能性を考慮した指標が必要であり、そのために市民が声を上げていかねばならないということがわかりました。

近藤さんのお話を聞いて、福島県には、地域の持続可能な発展のためにエネルギー事業を地域主導で作る動きがまだまだこれから出てくる一方で市場や政策の壁がまだ厚いことが判りました。竹村さんのお話では、電力を依存している東京こそ自分たちの電気を選ぶべきであり、それが一極集中型、地域搾取型の電力市場を変えていくのだと感じました。

 

(ライター:しま・かお)

このセミナーは地球環境基金の助成で開催いたしました。

 

当日資料について

会場がいっぱいになるほどのご参加、ありがとうございました。

当日のプレゼン資料および動画を公開いたします。

ご参考ください。転載等にあたりましては必ずご一報ください。

登壇者資料

 

2017-02-25