【開催レポート】フェア・ファイナンス・セミナー ~今求められる金融機関の投融資を通じた炭素排出の「見える化」~

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A SEED JAPANが運営団体を担うFair Finance Guide Japan(http://fairfinance.jp)(以下FFGJ)は、先月11月21日に、御茶ノ水にあるソラシティカンファレンスセンターにて、
フェア・ファイナンス・セミナー 今求められる金融機関の投融資を通じた炭素排出の「見える化」
を開催しました。
FFGJで独自に算出した各金融機関の炭素フットプリントの比較調査結果の報告を中心に、金融機関の投融資を通じた炭素排出を「見える化」するための国際的な取り組みの現状や課題について議論が行われました。特に、日本の行政・金融機関・NGOなど各セクターに求められていること、そしてそれぞれが取り組みを進める重要性が確認されました。
本レポートでは登壇者の皆様のご発表とディスカッション・質疑応答について簡潔にご報告します。

<講演1>
池田賢志氏(金融庁総務企画局総務課国際室長)
「気候変動関連情報開示と金融行政の役割」

気候変動を金融リスクとして評価するにあたり、投資判断の時間軸と気候変動による影響の時間軸との間に大きな差があるため、十分に気候変動の影響を理解しないまま投資判断がなされてしまう。その課題の対処のためにTCFDがある。TCFDでは気候リスクを、自然災害の増加・海水面の上昇などの影響を表す物理リスクと、気候変動に対応した政策・技術・消費者の変化などが与える影響を表す移行リスクに分けている。それらに対する企業の対応と財務的影響の開示を要求している。
日本でのTCFDの実施は、中長期的な企業価値の向上のための企業と投資家との対話においてなされていくことが重要である。日本の多くの企業が中期経営計画は3~5年程度の時間軸となっているが、こうした3~5年の更に先も見据えた中長期的な企業価値の向上が重要だ。企業と投資家においては、コーポレート・ガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの双方を踏まえ、ESGについて主体的に適切な建設的な対応を進めてほしい。
金融リスクの定量的な評価には依然として課題がある。TCFDでは炭素関連資産と炭素排出係数を指標の例に挙げている。しかし、炭素効率性については、業種ごとにばらつきがあるため、事業間で単純に比較するのは問題だ。また、GHG排出のスコープ1・スコープ2のみならず製品の使用段階を含めたライフサイクル全体での排出削減の把握が必要だ。
投資家の気候変動問題に対する取り組みは、ダイベストメントではなくエンゲージメントを重視するClimate Action 100+の登場により第二世代に来ているとみている。金融庁は、気候変動に伴うリスクや機会を的確に把握しているか今後踏み込んだ対話を行っていくとして金融機関に対しシグナルを出している。また、金融庁自身でも、気候リスクに対応するための中央銀行・金融監督当局の国際的なネットワークであるNGFS(Network for Greening the Financial System)に参画しており、このNGFSでは金融機関を監督する上での気候リスクへの取り組み方や気候リスクが金融システムに与える影響の評価方法などをまとめたレポートを来年4月に公表する予定となっている。

<講演2>
夫馬賢治氏(株式会社ニューラル代表取締役)
「投融資ポートフォリオの炭素フットプリント開示に関する国際動向」

先進国政府のみならず新興国政府、そして経済界全体が気候変動リスクを問題視する時代となった。フランスではいち早く法制化にまで踏み切った。
自社でも購入電力でもなくその他に関わっている関係者の温室効果ガス排出量はスコープ3に該当する。金融・保険業界においては投融資のポートフォリオのカーボン・フットプリントはスコープ3に対応する。PRIモントリオール・カーボン・プレッジへの署名の増加のように、金融機関がスコープ3であるポートフォリオのカーボンフットプリントを測定し、開示するという動きは世界でメジャーになりつつある。
現在カーボンフットプリントの明確な算定手法は確立されていないが、IIGCCやPCAFが独自の算定手法を開発し、活用する金融機関も増えてきている。投融資先の企業の排出量を自社が持つ株や債券の割合で割り振って足した総量を考える方法もその一つだが、投融資額が大きくなれば排出総量も自ずと大きくなってしまい比較性が良くない。そこで、分母を運用資産額や売上で割った「炭素原単位」を測定する方法などが開発された。また、非上場株式の影響の推定方法、国債・社債・不動産などの異なるアセットクラスについてもPCAFやIIGCCは測定手法を開発済みだ。
現状は、会計基準のように確立された手法はないものの、欧米では各金融機関が自分なりにベストな手法を採用したり開発したりしながら発表してきている。その上で、自社の過去をベンチマークとし改善を試みている。日本の運用会社やアセットオーナーも自分たちなりに走り出すべきだ。

<講演3>
田辺有輝(Fair Finance Guide Japanコーディネーター/「環境・持続社会」研究センター(JACSES)理事)
「国内大手銀行・生命保険・年金基金の株式ポートフォリオの炭素フットプリント調査結果」

先週FFGJにおける銀行のスコアを改訂した結果、メガバンクの点数が大きく動いた。3メガが包括的なポリシーを改訂した上、石炭火力についての融資方針も発表された。スコアへの反映は小さいが、動きは大きい。
石炭に関する投融資方針がプロジェクトファイナンスに限定され投融資全般では進んでいないため、包括的なアプローチで投融資方針が変わるきっかけにカーボンフットプリントの比較がなるのでは、と考え調査を行なった。国内16金融機関を対象とし、GHG排出量国内上位50社(電力・素材・運輸が主)の株式を元に算定した。
算定の結果、持っている株式が多いGPIFがダントツで、他も大きい金融機関が多く排出しているとなった。株式投資への限定、上位50社への限定、ダブルアカウンティング、不十分なデータ(ゆうちょ・かんぽなど)といった課題がある。総資産(運用会社の運用資産は含めず)で割った結果、順位変動があったが、銀行より株式資産の大きい年金・保険会社、運用会社の株式が多い会社が高い値となる課題があった。運用会社に限定して運用資産総額で割った場合も計算した。
第一歩の調査として有効ではないか。今後は各金融機関が比較可能性を考慮し、開示を進めてほしい。加えて、開示するだけではなく、下げる議論も展開できればよい。

<パネルディスカッション・質疑応答>

Q:カーボンフットプリント評価の意義とは?
A:カーボンフットプリント評価のランキング自体にはあまり意味はないと思っている。なぜなら評価の比較材料がまだ一定ではないから。評価をする上でのScope1, 2は大体定まっていて他社と比較することはできるが、Scope3の比較基準が定まっておらず、各会社で評価方法がバラバラなのが現実だ。そのため、Scope3を評価の中に組み込むべきかには未だ議論の余地がある。現時点では自社の中でカーボンフットプリント評価に取り組むプロセスに意義があると言える。

Q:評価を開示するだけでは問題の解決にはならないのではないか?全体的にはポートフォリオの削減目標を決めるべきでは?
A:金融当局が環境当局の代わりを務めることはできない。GHG排出の規制をかけるなどは環境当局の仕事だ。金融当局のやるべきことは削減を政策として掲げることではなく、それぞれの業種の中で気候変動に伴うリスクや機会を中長期的な企業価値との関係で開示に取り組んでいく必要性を訴えることだ。そして企業がそうした開示を行うことは開示に値する行動をしているという社会・投資家に向けた強いステートメントになる。

Q:評価を開示することがなぜいま求められているのか。
A:以前までは気候変動は社会的には倫理的な問題に過ぎなかった。しかし現在、金融システムに影響を与えうる問題という認識に変わってきている。このように、金融と気候変動は、一見関係がないようで実はとても密な関係を持つようになっており、企業にとってもそれに取り組むかどうかが今後の業界での生きるか死ぬかを決めてしまうような問題にもなっている。企業が気候変動リスクや機会への対応を開示することは、そうした企業が資本調達を頼る機関投資家に企業としての価値を示すことであり、そうした対応を進める企業に投資が集まることで、環境と経済の間の好循環をもたらすことに繋がる。

Q:最後に一言
A:日本もESG投資の時代になってきている。この分野で先行する海外におけるESGの取り組みでは、機関投資家がNGOの知見を活用するという建設的な連携が生まれているが、日本でもこの新しい分野でのイノベーションがぜひ生まれて欲しいと願う。

<編集後記>
本セミナーには50名近い方々にご来場いただきました。その中でも、金融機関にお勤めの方を中心に、多くの社会人の方々にお越しいただき、ビジネスの分野においても気候変動問題に対する関心が高まっていることがうかがえました。
登壇者の方々からも、気候変動は実際に迫っている大きなリスクであり、金融・企業活動を今後も持続させていくためにはGHG排出量の算定、開示、そして削減への取り組みが不可欠となっていることが強調されました。現代社会の中で極めて大きな役割を持っている経済、そして金融が気候変動の解決にコミットしていくことが一層重要視されていくことでしょう。その流れを後押しすべく、私たちも継続してこのようなセミナー・啓発活動を行なっていかなければと思います。

私たちFair Finance Guide JapanとA SEED JAPANエコ貯金プロジェクトでは、金融を通してクリーンで公正な社会を実現するために、今後もセミナーやイベントを開催していきます。
詳しくはA SEED JAPANのホームページ(http://www.aseedjapan.org)やFair Finance Guide Japanのホームページ(https://fairfinance.jp)にて随時告知していきますので、引き続きご注目ください。
また、Fair Finance Guide JapanではFacebookページ(https://www.facebook.com/fairfinanceguidejapan/)にて、ESG投資や関連する社会問題についての情報を定期的に発信しています。こちらもぜひご覧ください。

<参考URL>
・FFGJケース調査報告書『金融機関による気候変動インパクトの「見える化」~日本の金融機関の国内株式ポートフォリオにおける炭素フットプリント調査~』:https://fairfinance.jp/bank/casestudies/carbon_footprint2018/
・金融安定理事会による「気候関連財務情報開示タスクフォースによる最終報告書」の公表について(金融庁):https://www.fsa.go.jp/inter/fsf/20170711-2.html
・株式会社ニューラル:http://neural.co.jp/

(ライター:すね・やまぴー・ゆーちゃん)

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2018-12-20