企業/投融資機関に情報開示を求める

一部の資産運用会社は、レポート等を活用して、自社としてのESG投資に対する基本的な考え方や取組状況を開示する等の対応を行っていません。また、多くのESG投資信託において、目論見書での運用プロセスにおけるESG要素の考慮方法に関する記載が抽象的です。

運用状況や投資銘柄に対する評価については、月報や運用報告書において、せいぜい投資信託への組入上位10銘柄のESGに関連する取組みを簡潔に記載する程度という状況です。

顧客が投資商品の内容を誤解することなく正しく理解し、他の商品と比較するなどして適切な投資判断を行えるよう、運用プロセスの実態に即して一貫性のある形で、適切な情報提供や開示を積極的に進めることが必要です。

家計・個人への運用商品の情報開示も十分ではなく、中立的な第三者による運用商品の比較や評 価も充実していないため、家計・個人と資産運用業界との情報の非対称性は大きく、牽制が働き難い状況にある。

法令上の定めにより、米国の資産運用会社の目論見書や追加情報書には、運用チームの主 要メンバーの氏名や経歴、担当するファンドの株式保有状況など、詳細な情報が記載されている。 このため、米国の運用担当者は顧客に対して明示的な運用責任を負っていると言うことができる。海外においては、運用責任の所在を明確化することで、運用担当者のモラルハザードを 防ぐことができるとの考えが普及している。

こうした中、わが国においても代表的なファンドについて、ファンドマネジャーの情報をホームページ上で公開している資産運用会社や、運用報告説明会を定期的に開催し、投資家の質問に直接 答える等、投資家との接点を持つように努めている資産運用会社もある。今後こうした取組みが拡大し、より多くの投資信託について、販売用資料やホームページ等での運用体制の開示が進めば、 顧客に加え、フィナンシャル・アドバイザーや評価会社等による運用体制の評価が充実し、顧客の 資産形成に資する良質な投資信託を選定するための重要な参考情報となり得る。 資産運用会社各社においては、海外の資産運用会社の開示事例も参考に、投資信託の運用体制の 実態が顧客に理解されるよう、例えば、旗艦ファンドから情報開示の充実を図るなど、自主的な取組みを進めることが望ましい。

保有銘柄の透明性確保 イボットソン・アソシエイツ・ジャパンの調査によると、多くの国・地域では、資産運用会社が、 リテール向けファンドの全保有銘柄を月次又は四半期の頻度で開示している。わが国では決算の頻 度に応じて、年に1回又は半期に1回の頻度で全保有銘柄を開示しているが、顧客向けの月次レポー トでは、残高上位 10 銘柄の開示に留まっている。

また、開示までの時間差についても、多くの国・地域で、規制当局が求める要件よりも早いタイ ミングで全保有銘柄の開示が行われている一方、わが国では、3カ月程度の時間差があり、時間差 を縮める自主的な取組みは少ない。

特に近年では、世界的に ESG を考慮するファンドの組成が増え、運用実態が伴っていない のではないかとのグリーンウォッシュの懸念も広がっている。保有銘柄のデータ開示が進めば、投 資家や評価会社が各投資信託の保有銘柄を比較し、分析することが可能となり、資産運用会社に対 する牽制にもなる。 なお、投資信託に関する情報開示については、「情報が多すぎると顧客にとって分かり難く、か えって顧客を混乱させることになる」との主張もある。しかし、データ活用が進展した昨今におい て、資産運用会社各社には、「分かり難くなるから情報を削る」のではなく、「顧客に必要かつ十分 な情報を提供できるよう、デジタル技術も活用し、開示を分かり易く工夫すること」が一層期待さ れている。例えば、海外の資産運用会社のミューチュアル・ファンドの全保有銘柄は、ホームペー ジ上で HTML 形式や Excel ファイルでの開示がなされており、個人投資家がデータを扱い易い。

参考文献

「ESG関連公募投資信託を巡る状況 金融庁 2022年4月」より抜粋https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20220425/02.pdf)
「資産運用業高度化プログレスレポート 2023 ―「信頼」と「透明性」の向上に向けて 」より抜粋 https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230421/20230421_1.pdf
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サラディ

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