これでいいのか?間違いだらけのバイオマス発電 その1   

間違いだらけのバイオマス発電について飯沼佐代子さん(一般財団法人 地球・人間環境フォーラム)に登壇いただいた連続セミナーより2回にわたってお届けします。

日本のバイオマス発電の現状、政策の問題点や燃料生産地の森林破壊の実態

(飯沼さん)私は長年、環境問題、特にこの15~16年ぐらいは森林に特化した活動をしています。

まず、最初に全国のバイオマス発電所マップをご覧ください。今年の5月時点で、発電所建設の計画があるところ、稼働しているところを示しています。赤色が稼働中、黄色が着工済み・着工予定、青色が構想段階というものです。全国で900ヶ所、FIT認定(*1)された発電所があります。

バイオマス発電所がどのようなものであるかを見てください。これは、兵庫県の相生市で関西電力がもっている相生バイオマス発電所です。今年の3月に稼働しました。

元々は石油の火力発電所でしたが、3基あるうちの1基をバイオマス(木材)を燃やすものに変えています。出力は20万kWで、現在日本で一番大きなバイオマス発電所です。燃料としては木材を粉にして固めた「木質ペレット」をアメリカから輸入して使っています。

バイオマスはそもそも「動植物などから生まれた生物資源の総称」、つまり「生き物からできた資源」です。

バイオマス発電はこの生物資源を直接燃焼したり、一旦、ガス化するなどして発電します。ガス化の場合非常にコストがかかるので、ガス化発電の設備はまだそれほど多くありません。

伝統的なバイオマスのエネルギー利用は熱利用です。つまり薪とか炭です。人類は太古の昔から、世界中で燃料としてバイオマスを使ってきました。一方でバイオマス発電となると、たいへん非効率なエネルギーの使い方になってしまいます。

熱利用だとエネルギー効率が約80%以上になりますが、発電の場合20%から35%までです。つまり、10本の木を燃やした場合、熱利用だったら8本が熱になりますが、発電にすると10本燃やしたうちの8本が熱として排出されてしまい、電気にはならずに消えてしまうということです。そういう意味で、非常に無駄の多いエネルギーの使い方なのです。

このような非効率なバイオマス発電は、普通はどこの国でもやらないのですが、日本で急増したのは、2012年の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)によって支援され、推し進められたからなのです。

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の仕組みとは

再生可能エネルギーの発電事業者が生産した再エネ電気は電力会社が買い取ります。買い取るときにあらかじめ決められた値段、つまり、普通の市場価格より高い値段で買うという仕組みです。

高い買取り価格の差額は誰が払っているのか

これは「賦課金」と呼ばれています。これを電力消費者が払います。電力消費者というのは、私たち市民や、事業や営業活動に電気を使うすべての事業者の皆さんのことです。皆さんのおうちの電気の使用料金の計算・請求書に、「再エネ賦課金」というのが書かれているのをご存知ですか。これが、電気料金に上乗せする形で全ての電力消費者から強制的に徴収されているお金です。これは税金ではありませんが、電気料金に上乗せされる形で、全ての国内生活者、日本人外国人問わず、全ての日本国内にいる電力消費者に支えられている制度です。

つまり基本的に私達全員だと思ってください。

FITは再生可能エネルギーを推進するということが目的ですが、目標として、「環境負荷の低減」、つまりCO2をたくさん出さないこと、それから「日本の競争力の強化」、「産業振興」、「地域活性化」などということが謳われています。

この再生可能エネルギーには、主に太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスがあるんですが、日本の競争力を高めたり、地域を活性化させたり、そしてもちろんCO2を減らすことに役立つと考えられているということです。

しかし、バイオマス発電については、CO2排出を巡る重要な問題があります。

木質バイオマス(木材)を燃やしたときのCO2排出量は、実は石炭よりも多いのです。化石燃料を燃やす火力発電の中で最もCO2排出量が多いのは石炭で、中でも一番排出量が多いのが「褐炭」というものですが、実は、これよりも排出量が多いのが、木材です。天然ガスと比べるとほぼ2倍になります。日本の国立環境研究所が報告している炭素排出係数では、木材の係数「29.6」というのは石炭の「24.3」よりも大きいわけです。しかし、日本の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)では、「バイオマス燃焼のCO2排出量はゼロとして良い」ということになっているんです。

これは、産業技術総合研究所の歌川学さんに試算していただいたグラフですが、「IEAネットゼロシナリオ」というのは、パリ協定の温暖化目標である1.5℃目標を達成するためには、どれくらい電力セクターのCO2排出を減らさなきゃいけないか、という数字です。

27.154グラムというのが、1.5度目標を達成し得る数字で、グラフの黄色い線です。石炭火力はもちろん大幅に超えてます。実は、石炭とバイオマスを混ぜて発電する「混焼発電」というものもありますが、それも石炭だけ燃やす場合よりも多くなります。

そしてバイオマスだけを燃やす場合はさらに排出量が多くなります。にもかかわらず、今の再生可能エネルギー固定価格買取制度では「ゼロ」としているのです。

FITの課題について

経産省はFITが始まって11年目の2022年にようやく、バイオマス発電の温室効果ガス排出基準を作りましたが、基準の対象となるのは22年以降の新規認定発電所に限られ、冒頭で申し上げた900カ所のほとんどはこの基準が適用されません。また、この排出基準では燃焼によるCO2排出は「『ゼロ』とみなす」としています。FIT認定容量(FIT認定を受けた発電所の出力(kW))の8割が、主に輸入燃料を使ったバイオマスです。これは、燃料を輸入に依存しているので、エネルギー自給にはつながりません。当然地域への恩恵も少ない。これがもし、国産材となれば、CO2排出量の問題はありますが、少なくとも地域の産業の活性化にはつながります。

また、輸入木質バイオマスの場合、持続可能性の確認が非常に難しいのです。日本は海外からその8割を買っているわけですが、生産地であるベトナム、カナダ、そして今増えているアメリカで何が起きてるか。森林の減少とか劣化が起きてないか、地域住民にどのような悪影響が及んでいるかを確認するのは非常に難しいことです。

またこのFIT輸入木質バイオマス発電のために支払われる賦課金を計算すると、20年間で8兆円を超えるという試算があります。

バイオマス発電では、コストの7割が燃料費です。太陽光発電や風力発電は最初の設備投資にお金がかかりますが、一度作ってしまえばランニングコスト(運転に係るコスト)は、ほとんどかかりません。

しかし、バイオマス発電は火力発電なので、燃料を燃やし続けなきゃいけない。燃料が切れると、発電できません。ですから、ずっと燃料を買い続けて、投入し続けなければなりません。だから、コストは高止まりするのです。

さらにコストのかかる燃料が輸入の場合、お金は全部海外に流出してしまいます。私達が再エネ賦課金として払っているものも、海外に流出しています。そして、この燃料費は20年間削減できる見込みがない。そういうわけで、FITによる買取り期間が終了する20年後に、ビジネスとして自立することも期待できません。それではFITの目的(環境負荷の低減、競争力の強化、産業振興、地域活性化など)には合致しない。私達は、そもそもCO2が減らないということで、木質バイオマス発電は再エネとして適切かどうか、という大きな疑問を持ち続けています。

(*1)再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT):経済産業省資源エネルギー庁所管の制度で、消費者から通常の電気料金に上乗せする形で徴収された「FIT再エネ賦課金」をもとに、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電気を高く買い取り、再エネの導入を促進するための制度。FIT制度において、バイオマス発電は再エネの1つとなっている。

その2に続く)

飯沼 佐代子(いいぬま さよこ)氏プロフィール
一般財団法人 地球・人間環境フォーラム

信州大学農学部森林科学科、大学院修了。持続可能な天然資源(特に森林)の利用と管理がテーマ。環境コンサルタントとして環境アセスメントに従事した後、98年から6年間タイ・チェンマイを拠点に、メコン・ウォッチなどのNGOで森林管理の支援活動を行う。2005年帰国。アジア太平洋資料センター(PARC)を経て、2008年から地球・人間環境フォーラム。以降、日本の木材・パーム油消費、持続可能な利用について活動。近年は違法伐採対策法の制定やパーム油発電の問題についての提言を行う。

本記事は独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金の助成により作成されました。

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