これでいいのか?間違いだらけのバイオマス発電 その2   

間違いだらけのバイオマス発電について飯沼佐代子さん(一般財団法人 地球・人間環境フォーラム)に登壇いただいた連続セミナーより2回にわたってお届けします。

バイオマス燃料輸入の実態はどういうものなのでしょうか。

(飯沼さん)FITが始まった2012年の時点では、主に使われている燃料である「木質ペレット」の輸入量は少なかったのですが、それがこの10年ほどで、急増しています。

特にこの2年間、2020年から2022年の間に2倍以上に増えました。

さらに、これから石炭との混焼、つまり石炭火力発電所に木質バイオマスを混ぜて燃やすというケースが増えていくと考えられます。現在の輸入量は400万tですけど、さらに700万tから1000万tという規模にまで輸入燃料が増えていく可能性があります。その増加分はおそらくアメリカから輸入されるだろう、と言われています。

燃料生産地の状況について、今日はカナダを例に、簡単にご説明したいと思います。

カナダは非常に広大な国ですが、日本向けに木質ペレットを輸出してるのは、主に一番西側(太平洋側)にある、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州です。BC州は非常に広大で、大体日本が3つ入るぐらいの広さがあります。

BC州は森林が豊かな地域で、現地ではずいぶん長い間、原生林(*2)の伐採が問題になっています。

現在でも、おそらく、樹齢数百年に及ぶ大きな丸太が伐られており、それに対する抗議デモが行われたりしています。

日本で言えば、国立公園とか野生生物保護区とか、そういった保護エリアになっているような場所が、今でも商業伐採の対象になっているというのが、BC州の現状です。

現地政府や事業者、あるいはそこから木材を買っている日本の商社は、ペレット原料には「製材残材」を使っていると言っています。要するに、良い木材を製材して、建築材などの材木として使った残りの「残材」をペレットにしてるんだから、森林には直接影響がない、と主張しています。

実際に現地のペレット製造企業の報告等を見ると、「8割のペレットが製材残材から作られている」となっています。しかし、この製材残材の元は、樹齢数百年の天然林が伐採されているものなのです。

このこと自体が果たして持続可能なのかどうか、ということを問う必要があります。

そして、残りの2割は「低質材」や「未利用材」と言われています。要するに、製材のクオリティにない、つまり、立派な木材として使えないような木材です。木材によっては、元々の木の性質によって、あまり建材に向かない木もありますので、そういったものが「低質材」「未利用材」とみなされ、森林を伐採して直接ペレットにされています。それが大体2割程度ということです。現地のペレット生産業者は、樹齢150年から200年のそうした天然林を皆伐(全ての木を切る伐採方法)し、それをペレットにしてしまいます。

BC州では、伐採後の植林は法的義務なので必ず行われますが、元々の天然林には多様な種類の木が存在しているのに対し、伐採後は、2~3種類の経済的な価値のある針葉樹だけを植えています。なので、元あった生態系が回復する見込みもありません。

そんな状況で原生林は保護されるのでしょうか。

BC州の原生林は既に危機的なレベルにまで減少しており、このような伐採は森林生態系の破壊により、森林トナカイなどの絶滅危惧種に対する取り返しのつかない影響を与える恐れがあると言われています。

ペレット工場に積まれている木材は、わりと細い木が多いですが、天然林から採られた木材です。細くても数十年から100年以上の樹齢に達しているものもあるとのことです。

これは原生林の中を歩いているところです。原生林の中には倒木がたくさんあり、地面がふかふかしています。長年降り積もった落ち葉や枝、倒木がそのまま土壌をゆっくりと作っていく過程にあります。そこにコケが覆い被さり、また新しい枯れ葉が落ちてくる。ということが繰り返されて、ふかふかの土壌になっています。そこに、様々な樹齢の木が生えているのが天然林です。

大体この辺の木は、おそらく樹齢200年ぐらいはたっていると思いますが、寒冷地なので成長が非常にゆっくりしています。そこにある枯れた木を、ペレット業者はよく「無駄なもの」「どうせ地面で腐ってしまうのだから、それを使った方が良い」と言いますが、よく見ていただくと、その枯れた木の上から新しい木が生えているんですね。

こうした枯れ木は貴重な栄養源であり、生態系を構築する一部です。案内してくれた現地の方は、「生物にとっては生きている木よりも、むしろ死んでいる木の方が価値がある」とおっしゃってました。

生きている木は虫に食われないように、あるいは、菌に侵されないための防御機能がありますが、死んでしまうとそれがなくなるので、いろんな虫や菌が入ったりして、また新しい生命を育む土台になっていくわけです。

日本人は植林地の光景に慣れているので、こういった天然林の機能を身近に感じることが少ないと思います。BC州のこの森林は、枯れた木や倒れた木が生態系を支えているということを実感できるような場所でした。

こういった森の一部に、ペレット事業者のマークがついています(写真)。赤いテープがついていますが、これは、ここが元々は伐採予定地だったことを示しています。この会社は結局倒産して別の事業者が買い取ったので、この時点ではまだ伐採は行われていませんでした。

とても湿ったところなので、古い枝にも地衣類がたくさんついています。非常に特殊な生態が見られる場所です。

これはペレット事業者が、木を切り倒した場所です。大面積で伐採されて、向こう側の丘にも虫食い状に伐採地が広がっています。この場所も多くの木が大体樹齢150年ぐらいの森林だったところです。

BC州のスザンヌ・シマード博士という有名な森林学者の方の論文から得られた情報ですが、このように森林を皆伐すると、地上の炭素蓄積、つまり木材や地上の炭素蓄積がガバッと減り、回復にはとても長い時間がかかります。もとあった炭素蓄積のレベルに戻るには、とてつもなく長い時間がかかるということです。

日本の事業者や林業関係者の方は「植えたらまた育つし、若い木の方が炭素の吸収が早い」とおっしゃいますが、確かに若い木が成長する段階の吸収スピードは速いんですけど、やはり天然林が有する膨大な炭素蓄積を回復するにはとんでもない時間がかかり、2050年のカーボンニュートラルには間に合わないでしょう。

バイオマス発電に関する世界の判断はどうなっているんでしょうか。

以下は今年の春に、G7気候エネルギー環境大臣会合の開催に先立って、私たちが世界90カ国の環境団体からサインをいただいた共同声明です。「石炭火力発電所のバイオマス混焼および専焼化(つまりバイオマス発電)は『グリーンウォッシュ』であり、気候変動を加速させ森林生態系を破壊してしまう」という内容です。

・バイオマス混焼をするかしないかに関わらず一刻も早く脱石炭を達成すること

・G7全体で(特に日本が)、バイオマス発電専焼に対する支援を行わないこと

・廃棄物以外の燃料を使うバイオマス発電を再生可能エネルギーの対象から外し、補助金等による支援を行わないこと

・バイオマスの燃焼段階のCO2排出を発電所ごとに計上するよう義務付けること

・バイオマス燃焼のCO2排出量を消費国でカウントし、自国の炭素勘定に含めること

などを求めています。

日本ではバイオマス発電をやめさせることはできないのでしょうか。

FITは、「バイオマス燃焼時のCO2排出はゼロ」として始まったのですが、世界ではこの10年間で気候変動に関する様々なルールが発展・変化してきています。

例えば、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)(*3)では、燃焼によるCO2排出についてはっきり書かれていないので、おそらく書かなくていいと理解されています。

一方、今、企業にとって排出量算定のグローバルスタンダードになっているGHGプロトコル(*4)では、バイオマスの燃焼によるCO2排出を報告せよ、と書かれています。

さらにScience-based Targets(SBT)(*5)、これは、1.5度目標を達成するための企業の排出削減目標の基準ですが、バイオマスの燃焼によるCO2排出を報告しなければならないと書かれています。

FITバイオマス発電の場合には、認定を取って発電を始めてから基本的には20年間、電力会社が高い固定価格で買い取ることになっています。つまり、発電事業者側としては「20年間でこれだけ儲かる」と、20年間の計画を立ててお金を借りて燃料を調達するための契約をしてから大きな事業を動かしていますので、途中でルールを変えられると困るという論理や立場になるのだと推測できます。FITを所管する経産省としても、一度「(CO2)ゼロカウントでいい」と言ってしまったものですから、後でルールを変更するのはかなり難しいのでしょう。

(聞き手)基本的に、作られた制度に則って事業を行うことには違法性はありません。では、現在の担当官僚がルールを変えられるかというと、難しい。そうするとやはり、市民セクター、NGOからプレッシャーをかけて、ルールを変えるしかない。ということなのでしょうか?この問題を解決していく手法として、どんなことをやっていったら良いでしょうか。

(飯沼さん)経産省をはじめ、日本のお役所は方向転換が非常に苦手です。それでも、実はいろいろと新しいルールは作っています。

例えば、バイオマス燃料の持続可能性基準を作ったり、先ほども言った温室効果ガスの排出基準を作ったんです。

しかし、その温室効果ガスの排出基準には大きな抜け穴があります。

ルールの議論を始めて、実際にバイオマス発電の温室効果ガス排出基準の議論が固まったのが2021年です。そして、2022年度以降に認定された発電所だけがその基準の適用対象で、それ以前、すなわち2022年の3月よりも前に、認定を既に取っている発電所に関しては、仮にまだ建設を始めていなくてもこの基準の適用にならないことになっています。

作った基準の対象になる大規模発電所は、1件か2件程度というのが現状です。「対象事業者がほとんどない」という基準を作っているわけです。

また、今どんどん輸入量が増えているアメリカですけれど、アメリカ南東部ではペレット工場から排出される煙などにより大気汚染を引き起こしています。環境基準を大幅に上回る汚染物質が排出されています。これは違法行為です。それで、違反した工場が州の環境局から罰金を命じられるということが繰り返し行われていて、それについて調べた現地のNGOの情報で「こんなに環境基準違反が起きています。これは違法なんじゃないですか」というアピールを経産省に送っているのですが、経産省は今のところ明確には対応していません。

FITによる発電事業は、普通のビジネスとは違うのです。補助金を出しているわけですから、ちゃんとルールを守るところに事業を実施させるというのが大事なんですが、本来ダメなはずの違法な行為が曖昧になっている状況です。

ただ、経産省よりも対応が早いだろう、と期待しているのが金融機関です。

今、様々な金融機関にもこういった違法行為や持続可能性の課題に関する情報を発信して、「これは貴行のビジネス上のリスクですよ」ということを伝えています。

バイオマス関連の事業者は、金融機関からお金を借りたり、投資を受けたりして事業を行っています。現状、バイオマス発電はESG投資の対象として認識されています。

そのバイオマス発電に環境・社会リスクがあるということがもっと理解されるなら、「これはESG投資の対象としておかしい」という声が上がり、投資の対象から外すという金融機関が出てくるはずです。日本の金融機関の動きはまだ遅いのですが、海外ではそういった例が出てきています。海外の情報をどんどん伝えて、グリーンウォッシュだという認識が生まれれば、少しでも変化は早まるのではないか、と期待しています。

(*2)原生林:過去に産業的な伐採やかく乱の影響を受けていない森林

(*3)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD):G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB:各国の金融関連省庁及び中央銀行からなり、国際金融に関する監督業務を行う機関)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しています。

・ガバナンス(Governance):どのような体制で検討し、それを企業経営に反映しているか。
・戦略(Strategy):短期・中期・長期にわたり、企業経営にどのように影響を与えるか。またそれについてどう考えたか。
・リスクマネジメント(Risk Management):気候変動のリスクについて、どのように特定、評価し、またそれを低減しようとしているか。
・指標と目標(Metrics and Targets):リスクと機会の評価について、どのような指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか。

(TCFDコンソーシアムサイトより。https://tcfd-consortium.jp

(*4)GHGプロトコル:温室効果ガス(GHG)排出量の算定、報告の基準として世界的に推奨されている基準。Scope1から3まで、どこまでの範囲とするかその区分けが示されている。

(*5)Science-based Targets(SBT):パリ協定が求める水準と整合した、5年~10年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。

(参考)FITバイオマス持続可能性ガイドラインのパブコメ募集について(2024年3月14日まで)
事業計画策定ガイドラインのパブコメ
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620224005&Mode=0

(その1)の記事はこちら

飯沼 佐代子(いいぬま さよこ)氏プロフィール
一般財団法人 地球・人間環境フォーラム

信州大学農学部森林科学科、大学院修了。持続可能な天然資源(特に森林)の利用と管理がテーマ。環境コンサルタントとして環境アセスメントに従事した後、98年から6年間タイ・チェンマイを拠点に、メコン・ウォッチなどのNGOで森林管理の支援活動を行う。2005年帰国。アジア太平洋資料センター(PARC)を経て、2008年から地球・人間環境フォーラム。以降、日本の木材・パーム油消費、持続可能な利用について活動。近年は違法伐採対策法の制定やパーム油発電の問題についての提言を行う。

本記事は独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金の助成により作成されました。

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