生物多様性とESG投資 国際的な動向を踏まえてESGウォッチができること(その3)

ESG投資と生物多様性、そしてESGウォッチプロジェクトの活動について足立直樹さん(株式会社 レスポンスアビリティ代表取締役/企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長)へのインタビューを3回にわたってお届けします。

研究者から発信者へ

足立氏:ESG投資の観点で一番怖いのは、座礁資産です。長期投資の観点では10年後、20年後、30年後にきちんと経済的にも回っている社会じゃないと困ります。そのためには今投資したものが座礁資産になってしまっては困ります。大事なことは、何が座礁資産なのかを見極めることだと思います。

気候変動に関してはもちろんお分かりでしょう。

生物多様性に関してはとにかく自然を破壊しない、開発しないことです。

先程の原材料の話と土地開発の話、あるいは外来種の話。この辺はやっぱり気をつけないといけません。そうしないと、私達の生活を支えている生態系の基盤が破壊され、どうしようもなくなってしまいます。

もう一つ、ネイチャーポジティブ・エコノミーやネイチャーポジティブ・ビジネスなどと言われますが、ここがすごく重要になってくると思っています。つまり、自然を増やすことによって経済をきちんと回す仕組みになっていく、ということです。だから、本当の長期的な目線で投資をするんだったら、ネイチャーポジティブな仕事やビジネスを作っていこう、というのが一つ大事なメッセージになるかもしれないですね。

私は、これからはあまり工業的なイノベーションを追い求めるのではなく、むしろ自然を上手く使いながら、どう自分たちの生活や経済をもう一度立て直せるかという方向に自分たちの時間を投資していくことの方が意味があることだと思います。若者1人が投資できる金融資産の額はたかが知れていますが、他に若者が自ら投資できる資産は何かというと、自分たちの時間なんです。これから社会人として生きていく30年~40年をどこに投資するかだと思います。

たとえば、ある企業で働くということは、その企業に投資をしてるということなのです。それが30~40年間働く間、本当に会社が存続して、40年後にちゃんと実を結ぶのか? 退職金を払ってくれるような会社なのか? それとも途中で潰れてしまう会社ではないのか?そういう話です。

たとえば農業の様な一次産業があります。経済的な持続可能性の観点から、一次産業は今は厳しい状況に置かれていますが、私はまだ逆転する可能性があると思いますし、きちんと発展させなければいけないと思います。

持続可能な一次産業を作ることができたら、少なくとも人々の生活は困らなくなります。しかも、環境(自然環境も生物多様性)も良くなります。多くの場合、気候変動の防止にも役立つことが多いでしょう。ただ、一次産業は気候変動の影響も受けやすいので注意しなければいけませんが…。

足立氏:海外の情報という観点では、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)WEF(世界経済フォーラム)も最近サステナビリティに力を入れています。そういう意味でも本当に時代は変化したなと思います。ここの二つはやっぱり影響力が大きいので、チェックした方がいいですね。

最後に一つ。今、日本語で入ってきている情報は少ないんです。なので、なるべくみなさんには海外の情報をフォローしてもらい、また私にも教えてもらいたいと思いますが、その中でも大きく動いているのは特にEUです。イギリスも頑張っています。イギリスとEUで今どのようなことが議論されているのか、何を考えているのかというのは見た方がいいと思います。

僕はその中で、二つポイントがあると見ています。一つは科学に基づいているということ。

欧州が常に世界で一番と言うつもりはありませんが、なぜ、聞いておいた方がいいと思うかというと、基本的に科学に基づいて進めているからです。科学的な研究成果に基づいているし、あるいは科学的な方法で進めています。政策にする時も、損得勘定や感情論ではなく、きちんと科学的に行っています。日本も見習った方が良いと思います。

もう一つ欧州が意識して言っていることが、今までは「環境」が中心でしたが、最近は「公平性、フェア」です。本当に重要な視点だと思いますし、それに基づいて発信されているものは、かなり信じていいんじゃないかと思っています。

鈴嶋:本日はありがとうございました。

(その1 記事)
(その2 記事)

足立直樹(あだち なおき)氏のプロフィール
サステナブル経営アドバイザー
株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。企業と生物多様性およびサステナブル調達の日本の第一人者として知られる。もともとは植物生態学の研究者としてマレーシアの熱帯林で研究をしていたが、熱帯林が次々と破壊されていく現場を目の当たりにし、帰国後すぐに国立環境研究所を辞しコンサルタントとして独立。38億年の生物の進化にヒントを得た持続可能な経営論、生物多様性の専門性を活かした持続可能なサプライチェーンの構築など、独自の視点と発想から、日本を代表する有名企業に対して、企業活動を持続可能にすることを支援してきた。さらに、こうした活動を通じて企業価値を高めるサステナブル・ブランディングの推進に力を入れている。2018年には拠点を東京から京都に移し、地域企業の価値創造や海外発信の支援にも力を入れている。環境省を筆頭に、農水省、消費者庁等の委員を数多く歴任する。

本記事は独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金の助成により作成されました。

ぜひシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!