日本の石炭火力政策の現状

日本の石炭火力政策の現状について桃井貴子さん(認定NPO法人気候ネットワーク 東京事務所長)へのインタビューをお届けします。

目次

水素・アンモニア発電利用とは?

今日は「日本の火力政策の現状」についてお話をしたいと思います。

日本では依然として、火力発電による発電量が多いのが現状です。資源エネルギー庁のエネルギー需給実績取りまとめ(2022年度)によると、石炭・天然ガス・石油による発電電力量が、全体の72%を占めています。

当然、これらの火力発電はCO2を大量に排出し、地球温暖化の原因となっています。そこで最近、政府は、「CO2を排出しない『ゼロ・エミッション』」を目指すということで「水素」や「アンモニア」の発電利用が推進する政策を打ち出しています。まず、「水素」は製造方法によって色で分類されることがあります。一つは水を再生可能エネルギーで電気分解する「グリーン水素」(現状では大量生産には限界があります)です。製造過程でCO2が出ない方法で作られる水素です。「グレー水素」「ブラウン水素」「ブルー水素」は、化石燃料を原料として製造されています。

「グレー水素」は化石燃料全般を原料として作られている水素を呼び、「ブラウン水素」は化石燃料の中でも石炭を原料として作られているものを呼びます。さらに、「ブルー水素」は、「製造プロセスで排出されたCO2を回収して地中に貯留する」というものです。グレー水素やブラウン水素は製造時に大量のCO2を発生します。またブルー水素もCO2回収に限界があり、CO2の100%回収は不可能です。

「アンモニア」は水素と窒素を触媒で化学反応させて製造します。水素と同様に色分けされていますが、現状で製造されているアンモニアはほぼ全てがグレーアンモニアです。政府は2030年までに石炭火力にアンモニアを20%混焼してCO2を削減するなどとしていますが、アンモニアを20%混焼しても、製造プロセスでのCO2排出を含めると、CO2排出量は石炭火力とほぼ変わらないのです。

アンモニアを利用した発電方法には問題があります。

まず、1つ目は「コストが高い」ということ。石炭より大幅に高くなって、再生可能エネルギーとの競争力も乏しいのが現状です。(追記:2024年2月に政府は、この価格差を政府が補填するという内容の「水素供給利用法案」を国会に上程しました。)2つ目は「CO2排出削減につながらない」ということ。「グレー」や「ブラウン」、「ブルー」の場合は、製造時にCO2を排出します。さらに、アンモニアは「ハーバー・ボッシュ法」という高温高圧下で生産されるので、大量のエネルギーを要し、生産過程でCO2が大量に排出されてしまうのです。また、日本では水素やアンモニアを海外から輸入することになるので、その運搬に化石燃料のエネルギーを必要とします。これでは「ゼロ・エミッション」の燃料とは言えないでしょう。

そして3つ目はアンモニアには強い「毒性がある」こと。アンモニアに触れると眼、皮膚、口腔や気道の粘膜に刺激症状や熱傷を発生させます。

また、アンモニアを燃やすと窒素酸化物(NOx)が出てしまいます。NOxは呼吸器疾患になるリスクを増大させます。 CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は「二酸化炭素回収・貯留」という意味ですが、これも政府は国内外で進めようとしています。2050年のゼロエミッションを宣言しながら、火力発電所を使い続け、出てきたCO2を回収して貯留しようというものです。しかし、CCSもたくさんの課題があります。まず、実用化には程遠く、地震大国日本には適地がないということ、また「圧入したCO2が漏れ出すというリスクがある」、「回収・運搬・圧入・モニタリングなど全てのプロセスで高額な費用がかかる(実際に再エネより高コスト)」、そして「現状ではCSS付きの石炭火力は日本に存在しない/海外でもほとんど成功していない」ということなどです。

今の日本の政策、ほんとうにこれでいいの?

国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素ロードマップの中では、気候の「1.5℃目標」に整合する削減のシナリオとして「2030年に全先進国の石炭火力発電所の廃止」とすることが示されています。2030年までの全廃はすでにほとんどの先進国が宣言しています。しかし、日本では、石炭火力発電所の廃止は示されておらず、むしろ維持温存する制度がつくられています。その一つが「省エネ法」です。「省エネ法」とは、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」という名称で、、社会的環境に応じて効率よくエネルギーを利用するために、工場、輸送、建築物、機械器具などについてエネルギー使用の合理化をはかろうということで制定された法律です。2022年の改正で「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」と名称が変わり、非化石エネルギーとして原子力、再生可能エネルギーのほか、水素やアンモニアも位置付けられ、転換することが明記されました。この「転換」には、火力発電所への水素アンモニアの混焼が含まれます。つまり、既存の火力発電所を残し、水素やアンモニアなどを混ぜることで、見かけ上発電効率が上がったかのように示すことを認めたのです。実際には、ほとんどCO2の排出削減になっていないことは前に述べたとおりです。

また、日本では、既存の石炭火力に事実上の補助金となるような「容量市場」という新たな制度もつくられました。こうした日本の制度によって、電力広域的運営推進機構(OCCTO)(*1)の「2023年度供給計画の取りまとめ」では、2032年の石炭火力発電の廃止計画は、現在の170基中5基しかありません。

(*1)OCCTO:日本における本格的な電力システム改革の第1弾として、586社が参加した「電力広域的運営推進機関」。電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国大で平常時・緊急時における電力の需給調整機能を強化することを目的としている。

政府の「第6次エネルギー基本計画」における2030年電源構成では、再エネの割合は36~38%と非常に低く、石炭の割合は19%です。しかしOCCTOの取りまとめにおける2032年の電源構成は、再エネの割合が31%と「第6次エネルギー基本計画」より低く、石炭は32%と高くなっています。

政府が打ち出している「第6次エネルギー基本計画」における再エネ導入・石炭火力削減目標は到底十分と言えませんし、それさえ達成できるのか心もとない状況と言うしかありません。

世界を見れば、1.5℃目標に向け「化石燃料からの脱却」や「再エネ拡大」に向けてエネルギーシフトが急速に進んでいます。でも、日本はむしろ既存の火力発電所やインフラを残し、再エネを増やしにくい環境が制度的につくられてしまっています。この状態が継続したとすれば、目標を達成することは不可能でしょう。

しかし、日本に住む人々の多くは、気候変動が危機的状況にあり、日本の取り組みが遅れているという事実を知らないし、「水素やアンモニア」の対策が効果的であるように感じている人も多いのではないでしょうか。皆さんはどう思っていますか?私たちはこの事実をもっと多くの人に知ってもらおう、と活動を続けています。

【日本のエネルギー政策近年の動向】
2022年 5月13日 改正省エネ法・高度化法・JOGMEC法成立
 →省エネに加えて、「非化石エネルギー」への転換を推進することを位置付ける大改正。非化石エネルギーには化
  石由来の水素・アンモニアなどを含む。実質的にはアンモニア混焼の推進で石炭火力の延命措置となる。

2022年 5月19日 エネ庁「クリーンエネルギー戦略」中間整理
2022年 6月10日  GXリーグ2022 キックオフ
2022年 7月27日 第1回GX実行会議(内閣官房)
2022年12月22日 第5回GX実行会議 GX基本方針案まとまる
2023年 2月10日 GX基本方針案とGX推進法案 閣議決定
 →省エネに加えて、「非化石エネルギー」への転換を推進することを位置付ける大改正。非化石エネルギーには化
  石由来の水素・アンモニアなどを含む。実質的にはアンモニア混焼の推進で石炭火力の延命措置措置となる。

2023年 5月12日 GX推進法案 可決成立
2023年 5月30日 GX脱炭素電源法案 可決成立

【プレスリリース】水素供給利用法案とCCS推進法案閣議を決定~再エネ代替がある電力分野(火力)はすべて対象外とすべき~(2024年2月13日)

https://kikonet.org/content/33739

桃井貴子(ももい たかこ)氏のプロフィール

認定NPO法人気候ネットワーク 東京事務所長

大学在学中から、オゾン層保護のための活動に尽力する。その後、衆議院議員秘書、全国地球温暖化防止活動推進センター職員を経て、2008年より気候ネットワークスタッフ。現在、同団体の東京事務所所長。原発や気候危機におびやかされない持続可能な社会をめざし、地域・国・企業などへの政策提言活動や市民への普及啓発活動を行っている。

本記事は独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金の助成により作成されました。

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